ドストエフスキー生誕200年の翌年に突然、プーチン大統領によってウクライナ侵攻が始まったことは晴天の霹靂のような事件であった。
1968年9月にタシケントで開催されるアジア・アフリカ作家会議に参加する準備をしていた堀田善衞にとって、8月21日にワルシャワ条約5カ国軍によってチェコスロヴァキア全土が武力で占領下におかれたことも、同じように衝撃的な事件だったと思われる。
ただ、堀田は九月二〇日から二五日までタシケントで開催されるアジア・アフリカ作家会議の一〇周年記念集会に出席して、「長年の友人である」ソ連の作家たちが「どんな顔をして何を言うか、このことだけをでもたしかめてみようと思い立った」と書いている。
その時の体験や見聞を記したのが『小国の運命・大国の運命』である。このチェコ事件はすでに見たように三島事件のきっかけにもなっていたが、今回のウクライナ侵攻は日本の軍国化を一気に推し進めるきっかけにもなり、緊張の高まりから偶発的な戦争が勃発する危険性をも孕んでいると思えた。
それゆえ、日本ではあまり知られていないシベリア侵攻の問題をも踏まえて『小国の運命・大国の運命』の感想を「チェコ事件でウクライナ危機 を考えるⅡ」と題して書き終えた順に急遽、アップした。その後も戦火が収まらない現在、岸田政権は核戦争の危険性を考慮に入れずに、大増税と軍拡に踏み出そうとしているので、書き急いだ原稿で不満は残るが、構成などは変更せずに取りあえず「ウクライナ危機に際して堀田善衞の『小国の運命・大国の運命』を読み直す」(上・下)と改題して再掲する。構成は下記のとおりであり、いずれ全体を書き直すようにしたい。
1)アジア・アフリカ作家会議と『インドで考えたこと』
2)1968年の国内外の情勢と『小国の運命・大国の運命』の構成
3)二つの侵攻との比較――ソ連軍の満州国侵攻と日本軍のシベリア侵攻
4)「“人喰い鬼”の詩」と『プラウダ』の衝撃
5)ロシアの“魂”とペレストロイカの挫折
6)「逆効果の“白書”」――ソ連型社会主義と「大国」の問題点の考察
7)チェコスロヴァキアの歴史と「全スラヴ同盟」の思想
8)チェコスロヴァキア事件からウクライナ危機へ――民族主義的な権力者の危険性
9)日露の隣国併合政策と教育制度の類似性
10)「チェコ軍団」の動向とシベリア出兵の問題
⇒ウクライナ危機に際して堀田善衞の『小国の運命・大国の運命』を読み直す(上)
⇒ウクライナ危機に際して堀田善衞の『小国の運命・大国の運命』を読み直す(下)
(2022/04/03、 2022/12/14、 改訂)
コメントを残す