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「一億総活躍」という標語と「一億一心総動員」 

「一億総活躍」という標語と「一億一心総動員」 

2014年12月に行われた総選挙の際には、「アベノミクス」を前面に出した「景気回復、この道しかない。」というスローガンが、「国民」の目を戦争の実態から逸らし、今の困窮生活が一時的であるかのような幻想を振りまいた、「欲しがりません勝つまでは」という戦時中のスローガンと似ていることを指摘していました。

リンク→「欲しがりません勝つまでは」と「景気回復、この道しかない。」

高市総務相の「電波停止」発言に接した後では、戦前の内務大臣と同じような高市氏の言論感覚を問う記事を書きました。

リンク→武藤貴也議員と高市早苗総務相の「美しいスロ-ガン」――戦前のスローガンとの類似性

第3次安倍改造内閣では「一億総活躍社会」が目玉政策として掲げられ、その担当大臣まで任命されましたが、2月12日の「東京新聞」(夕刊)には〈「一億総活躍」への違和感〉と題された池内了氏の記事が掲載されていました。

「その言葉を聞くとなんだか気持ちが悪くなり、そっぽを向きたいという気になってしまう」と記した池内氏は、「大日本帝国がアジア太平洋戦争前および戦争中に、夥(おびただ)しい数の国策スローガン」を作ったが、そこでは「『一億』という言葉が頻繁に使われた」ことを指摘しています。

つまり、「一億日本 心の動員」などと心の持ち方が強調されていた標語は、物資が欠乏してくると「進め一億火の玉だ」、「一億一心総動員」などのスローガンとなり、戦況が厳しくなると「一億が胸に靖国 背に御国」から、「撃滅へ 一億怒濤(どとう)の体当たり」などと特攻隊のような標語となっていたのです。

このような標語の流れを詳しく分析した池内氏は、戦後は一転して「一億総懺悔(ざんげ)」と戦争責任がうやむやにされたことを指摘して、「標語に潜む意図」をきちんと読み解く必要性を説いています。

「日本新聞博物館」には、戦前の言論統制によって、新聞がきちんと事実を報道できなくなったことが、悲惨な戦争につながったことが時代的な流れを追って展示していました。

リンク→新聞『日本』の報道姿勢と安倍政権の言論感覚

安倍晋三氏が好んで用いる「積極的平和主義」からは、「日中戦争」や「太平洋戦争」の際に唱えられた「王道楽土」や「八紘一宇(はっこういちう)」などの戦前の「美しいスローガン」が連想されます。

1940年8月に行われた鼎談「英雄を語る」で、戦争に対して不安を抱いた林房雄から「時に、米国と戦争をして大丈夫かネ」と問いかけられた小林秀雄は、「大丈夫さ」と答え、「実に不思議な事だよ。国際情勢も識りもしないで日本は大丈夫だと言つて居るからネ。(後略)」と続けていました。

この小林の言葉を聴いた林は「負けたら、皆んな一緒にほろべば宣いと思つてゐる」との覚悟を示していたのです(太字は引用者、「英雄を語る」『文學界』第7巻、11月号、42~58頁。不二出版、復刻版、2008~2011年)。

「一億一心総動員」という戦時中の物資が欠乏してきた時代に用いられた標語によく似た「一億総活躍」という標語が、安倍内閣で用いられたということは今の時代の危険性をよく物語っているように思えます。

(2016年2月17日。青い字で書いた箇所とリンク先を追加)

リンク→小林秀雄と「一億玉砕」の思想

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