掲載が遅くなりましたが、ドストエーフスキイの会「第229回例会のご案内」を「ニュースレター」(No.130)より転載します。
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第229回例会のご案内
下記の要領で例会を開催いたします。皆様のご参加をお待ちしています。今回は火曜日の開催ですので、ご注意ください!
日 時:2015年9月22日(火)午後2時~5時
場 所:場 所:千駄ヶ谷区民会館(JR原宿駅下車7分)
℡:03-3402-7854
報告者:冷牟田幸子 氏
題 目 :『永遠の夫』と「地下室」
*会員無料・一般参加者=会場費500円
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報告者紹介:冷牟田幸子(ひやむた さちこ)
1937年生。早稲田大学第一文学部英文科卒業。
著書;『ドストエフスキー―無神論の克服』(近代文芸社、1988年)
訳書;ワッサーマン編『ドストエフスキーの「大審問官」』(ヨルダン社、小沼文彦、冷牟田訳 1981年)
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『永遠の夫』と「地下室」
冷牟田 幸子
『永遠の夫』(l869年秋完成、70年『黎明』1,2月号に発表)には、後期諸作品に共通する思想性も宗教性もなく、格別魅力的な人物も見当たりません。風采のあがらない実直な「永遠の夫」トルソーツキーと軽薄才子の「永遠の情夫」ヴェリチャニーノフという、対照的な一見分かりやすい二人の中心人物の間で繰り広げられる、謎めいた心理戦を読んで楽しめば事足りるような『永遠の夫』を、なぜ取り上げる気になったのか。ひとえに、ドストエフスキーの手紙(小沼文彦訳)にあります。1869年3月18日、ストラーホフに宛てて次のように書いています。
この短篇(『永遠の夫』)は今から4年前の兄が亡くなった年に、小生の『地下生活者の手記』を褒めてくれ、そのとき小生に「君はこういったふうのものを書くといいよ」と言ったアポ(ロン)・グリゴーリイェフの言葉に答えて書いてみようと思い立ったものです。しかしこれは、『地下生活者の手記』ではありません。これは形式の上からは、まったく別なものです。もっとも本質は──同じで、小生のいつもながらの本質です。ただし貴兄が、ニコライ・ニコラーイェヴィッチ、作家としての小生の中に、多少とも独自の、特殊な本質があると認めてくださるならばの話ですがね。
つまり、『永遠の夫』の登場人物たちと「地下室者」との関連性、さらにいえば、ドストエフスキーのいう「いつもながらの本質」を探りたいと思ったのです。
ここに注目すべき、作品からの引用があります。モチューリスキイ著『評伝ドストエフスキー』(松下裕・松下恭子訳)における『永遠の夫』からの引用です。
1 「情夫はかっとなって夫に叫ぶ。『捨ててしまうんだ。君の地下室のたわごとは。君自身が地下室のたわごと、がらくたなんだから』」(第九章)
2 「ヴェリチャニーノフはトルソーツキーに『われわれは二人とも堕落した醜悪な地下室の人間です』と白状している。」(第十三章)
ここからモチューリスキイは、ヴェリチャニーノフとトルソーツキーを「地下室者」と結びつけます。一方、代表的な日本語の訳書(a)河出版(米川訳)と(b)筑摩版(小沼訳)は、先の二つの文章に該当する部分を次のように訳しています。
1(a)「床下から引っぱり出したようなけがらわしい話をもってとっとと出てうせろ!それに第一、あんた自身からして床下のねずみみたいなやくざ者だ。」
(b) 「その床下のがらくたみたいなものを引っかついで、どこへなりと出て失せろ!第一あんたからして床下のがらくたみたいな代物じゃないか。」
2(a) 「われわれはお互いにけがらわしい床下のねずみみたいな胸くその悪くなるような人間なんです。」
(b)「われわれはふたりとも実に罪深い、床下でうごめいているような、なんとも汚らわしい人間なんですよ。」
これらの訳書で用いられている「床下のねずみみたいな」、「床下」、「床下でうごめいている」が、原典の「地下室の」(подпольный)に当たりますが、さきの文脈の中で何ら違和感なく読めて、そこに敢えて「地下室」を読み取るのは難しいでしょう。モチューリスキイは、ストラーホフに宛てた手紙を念頭において読んでいますので、ドストエフスキーがここにさりげなく忍び込ませた「地下室の」という単語を、『地下生活者の手記』の「地下室」と結びつけることができたのだと思います。
訳書の「床下」に当たる原語は何かを原典にあたって調べようとしたとき、偶然に『永遠の夫』の「創作ノート」(準備資料)を見つけました。それは、『永遠の夫』と「地下室」の関連性を考えるうえで、さらに先のドストエフスキーの書簡を理解するうえで大きなヒントを与えてくれるものでした。(一)作品論と(二)『永遠の夫』と「地下室」の関連性の二部構成でお話しします。
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例会の「傍聴記」や「事務局便り」などは、「ドストエーフスキイの会」のHP(http://www.ne.jp/asahi/dost/jds)でご確認ください。
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