(2011年3月16日撮影:左から4号機、3号機、2号機、1号機、写真は「ウィキペディア」より)
川内原発の再稼働と新聞『小日本』の巻頭文「悪(にく)き者」
原子力規制委員会は「周辺に活火山群がある鹿児島県の九州電力川内原発について、新規制基準にかなうと判断」していましたが、この判断に従って九州電力は川内原発1号機の原子炉を明日、再稼働させると発表しました。
また、菅官房長官は10日の記者会見で「第一義的には責任は事業者にあるが、万が一事故が起きた場合、国が先頭に立って原子力災害への迅速な対応や被災者への支援を行っていく」と語ったとのことです。
しかし、福島第一原子力発電所の大事故がいまだに収束してはおらず、原子力災害の被災者への十分な対応もできていない現状を考慮するならば、菅氏の説明はほとんど説得力を持っていないように見えます。
川内原発の再稼働の危険性については、〈御嶽山の噴火と川内原発の再稼働――映画《夢》と「自然支配」の思想〉で詳しく考察しましたが、記者会見での安倍首相と菅官房長官の言葉から思い出したのは、「功労なくして顕地に立ち、器識なくして要路を占め、天を畏れず、人に省みず、政事家気取をなす者の面、悪(にく)むべし。」という新聞『小日本』に記された子規の言葉でした。
圧倒的な権力を有した当時の薩長藩閥政府の「新聞紙条例」や「讒謗律」にもかかわらず、敢然と権力の腐敗を厳しく批判した新聞記者としての子規の文章には、圧倒されるような気迫があります。俳句を改革した子規の業績もこのような新聞人として現実の直視から生まれているのではないかと思います。
『新聞への思い――正岡子規と「坂の上の雲」』の執筆を少し先送りしてでも、「戦争法案」の成立を阻止するためにブログの記事を私が書き続けていることも、子規の気迫に促されているところもあるようです。
今回は変体仮名を標準的な平仮名に直して、明治27年3月23日の新聞『小日本』の巻頭を飾っている「悪(にく)き者」という一連の文章の前半を紹介することにします。
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悪(にく)き者
○権謀術数は兵事に於てこそ尚(たつと)ぶ可(べ)けれ、政事就中(なかんづく)内治(ないぢ)の上に用ふ可(べ)きものに非ず。然るに今の政事社会には内治の上に之を振回(ふりまわ)し、したり顔する政事家少なからず。悪(にく)むべし。
○制を矯め命(めい)を偽はりて一世に我物顔(わがものがほ)に振舞ふ者は、悪(にく)む可(べ)き者の骨頂なり。
○正常の手段もて正常の業(げふ)を営み、富(とみ)を致してこそ名誉はあれ、人間の恥といふものを忘れ、人を欺き他を困(くるし)め、不義の財を貪り積みて扨(さて)紳商と高ぶるしれ者多し、悪(にく)むべし。
○勢家の意を迎へ、権門の心に投し、例を欧米に求めて虐政を幇(たす)け、言を英国に托して暴制を設けしめ、 才子を以て自ら居る者、学校出身の若手にまゝあり、悪(にく)む可し。
○功労なくして顕地に立ち、器識なくして要路を占め、天を畏れず、人に省みず、政事家気取をなす者の面、悪(にく)むべし。
(2015年12月22日、2017年6月5日。写真を追加)
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