フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の世界的なベストセラー『21世紀の資本』が日本でもたいへん話題になっています。
解説の記事などを読むと経済が成長すれば低所得者にも恩恵が波及するとの考えに懐疑的な見方を示し、安倍政権の「アベノミクス」とは一線を画しているとのことです。
ピケティ氏の強みは、この問題をたくさんの資料を読み込むことによって説得力を持つ形で、「トリクルダウン(trickle-down)」理論を批判し得ていることでしょう。
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「トリクルダウン(trickle-down)」理論の問題点はよく知られており、ドストエフスキーも長編小説『罪と罰』で悪徳弁護士ルージンの説く「アベノミクス」と似た経済理論を厳しく批判していました。
興味深いのは、正岡子規が編集主任を務めた新聞『小日本』が、明治27年3月29日に、「貧と富」と題する論説記事を載せて金持ちの横暴を厳しく批判するとともに、格差の問題点を指摘して「極富の人に救済の義務」を説いていたことです。その一部をここに再掲します。
(図版は正岡子規編集・執筆『小日本』〈全2巻、大空社、1994年〉、大空社のHPより)
* 「貧と富」 *
「貧富人生免れ難しと雖(いへど)も貧者益々貧にして富者益々富まは其極や奈何(いかん)、
文明の風吹き荒(すさ)みてより見よや此間(このあひだ)に一大溝渠(こうきょ)の作られもて行けるを、
駿台(しゆんだい)の紳士は犬を養ふに一月(ひとつき)数百万を費やす、煉瓦の室是れ犬の居る処、牛豚の肉是れ犬の食(くら)ふ処一転して万年町(ばんねんちやう)の光景に見れば犬にはあらぬ人間が居(を)る処は風雨を凌ぐには足らず食(くら)ふ処は腹を満たすにも足らず、父は病に臥して薬の供すべきなく児は饑(うゑ)に泣きて与ふるに物なし、(中略)
同しく生れて人間となる、一(ひとつ)は此(かく)の如く一は彼(かれ)の如し、極貧(きょくひん)の人に受済の権利なきも極富の人に救済の義務なき乎、窮鼠は猫を噛む、窮民益々多くして其極や如何、
今の肉食(にくじき)者は之を思はずや、
社界党は党中の尤も恐るべきものなり、」
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