『日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ』に収められた安倍首相との対談で百田尚樹氏は、映画も近く封切られるので『永遠の0(ゼロ)』は「四百万部近くいくのではないかと言われています」と語っていました(64頁)。
興味深いのは、小説『永遠の0(ゼロ)』の主要登場人物の武田が賛美している思想家の徳富蘇峰の『大正の青年と帝国の前途』の発行部数は当時としては異例の約100万部にのぼっていたことです。権力者に媚びてその意向を反映するような著書は大ヒットすることがこの二つの書の売れ行きからも分かります。
問題なのは徳富蘇峰がここで、白蟻の穴の前に硫化銅塊を置いても、蟻が「先頭から順次に其中に飛び込み」、その死骸で硫化銅塊を埋め尽し、こうして「後隊の蟻は、先隊の死骸を乗り越え、静々と其の目的を遂げたり」として、集団のためには自分の生命をもかえりみない白蟻の勇敢さを讃えて、「我が旅順の攻撃も、蟻群の此の振舞に対しては、顔色なきが如し」と記していたことです(『大正の青年と帝国の前途』筑摩書房、一九七八年、三二〇頁)。
このことを思い起こすならば、「人間」としての尊厳を奪い「白蟻」とするような政権に対して、平成の若者はきちんとNOを突きつけねばならないでしょう。
(2017年1月7日、図版と蘇峰の文章を追加)
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