黒澤監督は一九五一年に公開した映画《白痴》の「演出前記」において、「僕は僕なりに、この主人公と作中人物を永い間愛して来た」と書き、映画《白痴》を「原作の深さ」には及ばないだろうとしながらも、「原作者に対する尊敬と映画に対する愛情を傾けて、せい一ぱい努力するつもりだ」と続けていました(Ⅲ・二八五〕。
実際、戦時中の一九四三年一月に公開された映画《愛の世界・山猫とみの話》の脚本が主に黒澤明監督の手に成るものであることが、最近明らかになりましたが、そこにはすでに長編小説『虐げられた人々』からの影響が強く見られるのです。
しかも、黒澤明のドストエフスキー作品への関心は、映画《乱》やシナリオ『黒き死の仮面』にも強く反映していました。このことを堀伸雄氏は第220回例会での発表で、『カラマーゾフの兄弟』とのテキストの比較をとおして具体的に検証しました。例会の「傍聴記」を「主な研究」に掲載しました。
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