戦時中の一九四三年一月に公開された映画《愛の世界・山猫とみの話》(青柳信雄監督)が黒澤明監督の映画ときわめて似た特徴を持つことは、黒澤明研究会の会員の間で以前から話題になっていたようで、研究上映会が昨年の七月二七日に行われました。
その結果、この映画にはテーマだけでなく、映像の面でもその後の黒澤映画を予告するようなシーンが多く見られたことで、急遽、九月一日に研究例会の議題として取りあげられ、会員によるそれぞれの視点からの発表が行われました。
この研究例会では原作が佐藤春夫の提案により、俳句の連歌的な趣向により合作という形で発表されたことや、その後、如月敏と黒川慎の脚本で高峰秀子の主演による映画化がなされたが、黒川慎という名前が黒澤明監督のペンネームであり、最終的には黒澤明がまとめていたことが、いくつもの資料をとおして明らかにされました。
その詳しい内容については、いずれ黒澤明研究会の『会誌』に掲載されることになると思いますので、ご期待下さい。
私も「映画《愛の世界》と長編小説『虐げられた人々』――黒澤明監督と「大地主義」」という題でドストエフスキー作品との比較をしました。そこでは時間的な都合もあり、小林秀雄の『虐げられた人々』観との比較はできなかったので、「映画・演劇評」のページでは映像的な面にも言及しながら、この問題を掘り下げることにしたいと思います。
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