10月26日に「藝術座創立百周年記念イベント」の第一部「藝術座の唄をめぐって」を見てきました。
台風の影響もあり、客席はがらがらではないかと心配しましたが、ほぼ満席に近iい状態でした。
松井須磨子の役を演じたこともある女優の栗原小巻氏は、女優という職業を確立した須磨子の生涯の簡単な紹介の後で、ほぼ同時期を生きた与謝野晶子の詩「君死にたまふことなかれ」を朗読しました。
日露戦争に従軍した弟の身を案じて謳った晶子のこの詩は、当時大変な共感を呼んだだけでなく厳しい批判も浴びましたが、栗原氏によるこの詩の名朗読は、日露戦争の終了後から間もない時期に上演されたトルストイの長編小説『復活』の舞台化と劇中歌の「カチューシャの唄」が、なにゆえにたいへんな反響を呼んだかを示唆していました。
その後で行われた邦楽研究家の関川勝夫氏によるSPレコード原盤と蓄音機による松井須磨子の歌声などの鑑賞は、芸術座が創立された当時の時代へと観客を誘いました。
休憩時間の後に行われた講演で永嶺重敏氏は、苦境にあった劇団経営を好転させるため、抱月が当時人気が高かったトルストイの長編小説『復活』を演目にしたばかりでなく、切り札として初めて劇中歌を導入したことを分かり易く語りました。
そして、劇中歌として謳われた「カチューシャの唄」が、若者たちに愛唱されて、日本中に広まり爆発的な人気を呼んだとの説明からは、芸術座の劇と同じように劇中歌が有効に用いられている井上ひさし氏の劇ともつながっていることが感じられました。
黒澤映画《生きる》でも用いられたことで、今も愛唱されている「ゴンドラの唄」とツルゲーネフの『その前夜』との関連について語った相沢直樹氏の講演については、「映画・演劇評」で詳しく触れたいと思いますが、飯島香織氏(声楽家)による「カチューシャの唄」「ゴンドラの唄」などの歌唱と組み合わされたことにより、多面的な形で「藝術座の唄」の特徴が浮かび上がり、「カチューシャの唄」などをく300人ほどの観客と出演者の合唱で第一部が終わりました。
11月2日に行われる第二部「藝術座が遺したもの」でも、講演やシンポジウムの他に、「人形の家」「復活」の朗読が組まれているとのことなので今から楽しみにしています。
〔劇中歌「ゴンドラの唄」が結ぶもの――劇《その前夜》と映画《白痴》〕を「映画・演劇評」に掲載しました]より改題。
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