『黒澤明と小林秀雄――「罪と罰」をめぐる静かなる決闘』(成文社、2014年)
原稿の締切日が迫ってきて焦っているのですが、「国民の生命」にかかわる汚染水が危機の様相を示しています。
原子炉の専門家でない私がこの問題を論じても説得力は少ないだろうとの思いは強いのですが、この問題の深刻さがまだ多くの人には伝わっていないようなので、映画《夢》で原発事故の悲惨さに注意を喚起していた黒澤明監督の精神にならって書き続けることにします。(註:拙著『黒澤明と小林秀雄――「罪と罰」をめぐる静かなる決闘』の目次より/はじめに――黒澤映画《夢》と消えた「対談記事」の謎 一、フクシマの悲劇 二、映画《夢》と『罪と罰』における夢の構造 三、消えた「対談記事」)
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今回は原発事故の「報道」の問題に焦点を絞って気づいたことを記します。
8月1日(木)のテレビ朝日「そもそも総研」では、以前から危険性を指摘していた小出裕章・京都大学助教へのインタビューなどを、図像も交えて示しこの問題の緊急性を分かりやすく論じていました。
日付が変わった8月2日(金)の午前0時から0時10分まではNHKの「持論公論」では、すでに07月12日 (金)に「汚染水 海へ流出の懸念」を指摘していた解説委員の水野倫之氏が「原発汚染水危機 総力対応を」とのタイトルで緊急の対策の必要性を訴えていました(内容については、まだ詳しい文字情報が出ていないので、副題などについては、後日確認します)。
今回の発言の内容については後で言及しますが、まず科学技術担当の解説委員として原子力発電所の事故の重大性に注意を喚起していた水野氏の指摘を追うことで、2011年9月以降のこの問題に対する政府の対応をまず確認しておきます。
2011年09月07日 (水)
2011年12月16日 (金)
2012年11月09日 (金)
2013年04月09日 (火)
2013年04月12日 (金)
2013年07月08日 (月)
2013年07月09日 (火)
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このように書き出すと 原発の再稼働に積極的に行動しただけでなく、海外へも安倍首相自らがトップセールスを行っていた選挙前の状況で、孤軍奮闘という感じでこの問題への注意を促していた水野氏の指摘の重要性が浮き彫りになってきます。
しかも、この番組で今回の事態を原子炉の水素爆発直後との類似性に注意を促した水野氏が、きちんとした対策を取れない東京電力に汚水事故の収束を任せずに、事故直後の民主党政権と同じように政府も一緒になって直接解決に乗り出すべきだと指摘していました。
これは原発事故を観察してきた科学技術担当の解説委員としては当然の発言なのですが、安倍首相は事故直後の菅直人元首相の行動についてツイッターでいわれのない非難をし、それが民主党の支持率低下にも一定の効果を上げていたと思われることから、水野氏の指摘がNHKに絶大な影響力を持つ安倍首相の逆鱗にふれる危険性もあります。
8月3日には東京新聞や朝日新聞、毎日新聞だけでなく、読売新聞も政権寄りの原発報道だけでなく、「国民の生命」にもかかわるこの問題の緊急性に注意を促す記事を載せています。
NHKも株価の変動を毎日詳しく報道するだけでなく、「公共放送」の自覚を持って汚染水についての正確な情報も毎日報道すべきでしょう。
(2017年6月3日、図版と註を追加)
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