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『欧化と国粋――日露の「文明開化」とドストエフスキー』(刀水書房、2002年)

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「目 次」より

序章 二つの文明観――福沢諭吉の文明観とドストエフスキー

ロンドン・一八六二年

ピョートル大帝の改革と日本の近代化

「欧化と国粋」の対立とドストエフスキー

「文明開化」と「グローバリゼーション」

 

第一章 日本の開国交渉とクリミア戦争――「欧化と国粋」の視点から

ロシアからの黒船(一八五三年)

ロシアの視点からの鎖国考

ロシアからの使節団(一七九二年と一八〇四年)

クリミア戦争とバックルの『イギリス文明史』

クリミア戦争の展開と日本の条約交渉

「欧化と国粋」の対立――近代化の苦悩(ロシア)

「拝外と排外」の心理――言語教育と歴史認識

 

第二章 「大改革」の時代と「大地主義」――雑誌『時代』と『虐げられた人々』

ロシアの「大改革」と明治維新――ロシアと日本の司法改革

司法改革の歴史とペトラシェーフスキイ事件

「六〇年代知識人」の登場――「余計者」の批判

雑誌『時代』の発刊と大地主義の理念

「都市の秘密」と「農村の混乱」――『虐げられた人々』

「父と子」の対立と「領主と民衆」の対立の「相同性」

「復讐の権利」と「和解の模索」

「農奴解放令」後の混乱――学生運動の先鋭化

 

第三章 権力と強制の批判――『死の家の記録』と「非凡人の思想」

オムスクの監獄と『死の家の記録』――作品の構造と特徴

「文明の象徴」としての監獄――支配と服従の観察

民衆芝居の創造性――自由の意義の発見

「近代化の制度」としての監獄と病院――監視と強制

強制への反抗と権力への意志――「非凡人の思想」の誕生

「父親殺し」の貴族――「権力継承」の問題

「自己と他者」の死の考察――「非凡人の思想」の批判

 

第四章  「虚構」としての「国民国家」史観――『冬に記す夏の印象』と日本

福沢諭吉とドストエフスキー ――文体の特徴

近代西欧文明の現実――イギリス、フランス

チャアダーエフの文明観と「余計者」の考察

バックルの「国民国家」史観の批判――比較文明論の誕生

チャアダーエフの文明観とゴロヴニーンの日本観

方法としての文学――「自己」と「他者」の認識

「支配と服従」の心理の分析――『地下室の手記』

雑誌『時代』の発行禁止と「大改革」の終焉

 

終章 「欧化と国粋」のサイクルの克服――夏目漱石の文明観とドストエフスキー

ロンドン――一九〇〇年

「欧化と国粋」の対立――近代化の苦悩(日本)

「富国強兵」と「道義立国」――福沢諭吉と中江兆民

『三四郎』の「周辺文明論」的な構造

「大地主義」の理念と比較文明学

 

注/人名索引/事項索引/  関連年表/ あとがき

 

リンク→「グローバリゼーション」と「欧化と国粋」の対立 (序章より)

リンク→ 『欧化と国粋――日露の「文明開化」とドストエフスキー』(人名・作品名索引)

*   *   *

お詫びと訂正

急いで書き上げたために本書には、いくつもの重大な誤記がありました。深くお詫びして訂正いたします。

69頁 9行目 誤「一八五四年から四年間」 →正「一八五四年から五年間」

74頁 2行目 誤「劇評家」 →正「詩人」

77頁 後ろから3行目 誤(45) →正(44)(注の番号)

102頁 後ろから3行目 誤「近づこう」 →正「近づこうと」

103頁 後ろから3行目  誤「四年間」→ 正「五年間」

146頁 3行目 誤「そこに見るのものは」 → 正「そこに見るものは」

152頁 後ろから8行目 誤「自分の足で立つ時がきている → 正「自分の足で立つ時がきている」

162頁 9行目 誤「歴史・文化類型」→ 正「文化・歴史類型」

174頁 後ろから5行目 誤『坊ちゃん』→ 正『坊っちゃん』

188頁 8行目 誤「反乱のを」→ 正「反乱を」

191頁 7行目 誤「滅ぼすと滅ぼさるると云うて可なり」→ 正「滅ぼすと滅ぼさるるのみと云うて可なり」(下線部を追加)

193頁 2行目 誤「奴隷の如くに圧制」したいものだと →正「奴隷の如くに圧制」したいという

196頁 後ろから3行目 誤「広田の向かいに座った」 →正「三四郎の向かいに座った」

199頁 後ろから6行目 誤「平行現象」→ 正「並行現象」

 

書評と紹介

(ご執筆頂いた方々に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

書評 齋藤博氏『比較文明』第18号、2002年

書評 大木昭男氏『ドストエーフスキイ広場』第12号、2003年

紹介 米山俊直氏『私の比較文明論』(世界思想社、2002年、55頁)

紹介 長瀬隆氏『ドストエーフスキイ広場』(第12号、2003年、99~101頁)

紹介 三宅正樹氏『文明と時間』(東海大学出版会、2005年、48頁)

紹介 『青鴎』2002年

インタビュー 「著者に聞く」(東海大学新聞、2002年、3月5日・20日)

『「罪と罰」を読む(新版)――〈知〉の危機とドストエフスキー』(刀水書房、2000年)

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ここでは新版の「はじめに」と「目次」の後に、その本を書くきっかけとなった混迷の時期のロシアにもふれている初版の「あとがき」のリンク先も掲載する。

[はじめに ――「自己の謎」と「他者」]より

古代ギリシャのデルフォイの神殿には「汝自身を知れ」という神託が掲げられていたといいます。このことは一見、簡単なようにも見えますが、古代エジプトで旅人に難問を出して苦しめていたというスフィンクスの謎にも似て、意外と難しい要請のようです。(中略)

「自分とは何か」というこの問いがいっそう切実なものになってきたのは、恋愛の自由や、移動の自由だけではなく、職業の選択の自由も保証されて、自己の確立が求められるようになった近代に入ってからです。封建時代では農民の子供は農民であり、肉屋の子供は肉屋にというようにその職業は決まっていましたが、その一方で、個人の自由の増大は、大学や職業の選択、あるいは恋愛相手を決める際の悩みをも伴ったし、「現在の自分」と「なりたい自分」とのギャップも生み出すようにもなりました。

このような時代の潮流の中で、下士官から始めて、ついに皇帝にまで出世したナポレオン(一七六九~一八二一)は、個人の自由が増大した近代という時代を象徴しているような人物と言えるでしょう。そして、『赤と黒』の主人公ジュリヤンのように多くの若者がナポレオンへの強いあこがれを持つようになったのです。

名門サンクト・ペテルブルク大学の法学部で学んでいた『罪と罰』の主人公もまた、そのような一人と言えるでしょう。しかし、母親からの送金がとぎれたことで大学を退学せざるを得なくなった彼は、この小説に登場する時、まさに深いアイデンティティの危機に直面していたのです。

こうして、彼はクリミア戦争(一八五三~五六)に敗北して、それまでの価値が疑問になり、様々の犯罪も頻発するようになっていた混迷のロシアで「自分とは何か」を模索し、ついに人間を「非凡人」と「凡人」の二種類に分ける「非凡人の理論」をあみだし、高利貸しの老婆の殺害という「正義」の犯罪を犯すことになるのです。(中略)

ドストエフスキーは『罪と罰』のエピローグで、主人公の若者に自分だけが真理を知っていると思い込んだ人々が互いに殺し合いを始め、ついには地上に数名しか生き残らなかったという夢を見させています。この悪夢は第一次世界大戦だけでなく、お互いに自分の「正義」を主張してほとんど地球全域を巻き込み、五千万人もの死者を出した後にようやく終わりを告げた第二次世界大戦をも予言していたようにも思われます。混迷のロシアに生きたドストエフスキーの視線は現代の政治状況にも迫っていると言わねばなりません。(中略)

幸い近年ドストエフスキー研究は飛躍的に深まり、ロシアや西欧だけでなく日本でもすぐれた研究書が多く出版されています。また比較文明論や比較文学の分野でも最近の諸科学の成果を取り入れて新たな地平が開かれつつあります。それゆえ本書ではそれらの書物を紹介し、当時のロシアや西欧のすぐれた文学作品や思想書と比較しながら、『罪と罰』を丹念に読むことにより、近代西欧文明の様々な問題点を明らかにするとともに、新らしい〈知〉の形を模索したドストエフスキーの試みに迫りたいと思います。(後略)

目  次

はじめに――「自己の謎」と「他者」                   3

第一章 アイデンティティの危機  ――第一の動機          21~35

試行者――ラスコーリニコフ                          21

ヴェルテルとラスコーリニコフ                        23

善良な犯罪者                                  25

犯罪者と名探偵                                29

過渡期                                      31

なぜ「悪人」を殺しては、いけないのか                33

第二章 家族の絆と束縛  ――第二の動機                  37~51

母からの手紙                                        37

妹――ドゥーニャ                                    39

名探偵デュパンとホームズ                            43

酔っぱらい――マルメラードフ                        45

受難者――ソーニャ                                  47

「自己」としての家族                                50    

第三章  「正義」の犯罪  ――第三の動機                  53~72

高利貸しの老婆                                      53

完全犯罪の試み                                      54

呼び鈴の音                                          59

意図しなかった第二の殺人                            62

謎としての自己                                      66

やせ馬が殺される夢                                  68

第四章 自己の鏡としての他者――立身出世主義の影        73~86

苦学生――ラズミーヒン                              73

功利主義の思想――中年の弁護士ルージン             75

決められた世界                                      80

ナポレオンの形象                                    83

正反対の性格の奇妙な類似                            85

第五章  非凡人の理論 ――第四の動機                    87~104

予審判事――ポルフィーリイ                        87

記憶にない論文――非凡人の思想                      89

「自然淘汰」の法則                                  95

決して誤ることのない「良心」                        97

自己の絶対化と他者                                  102

第六章 他者の喪失――近代的な〈知〉の批判              105~121

急がば回れ――ラズミーヒン                          105

「でたらめ」の擁護――ルージンへの批判                106

「不死」の思想――『フランケンシュタイン』            109

論理の罠(わな)――他者の喪失                      112

「大地主義」の理念                                    116

第七章 隠された「自己」――「変身」の試み              123~143

農奴の所有者 ――  スヴィドリガイロフ              123

生きていた老婆の夢――目撃者としての身体            125

弱肉強食の思想――「権力」への意志                  129

スヴィドリガイロフとの対決――欲望の正当化          132

隠された「自己」――『ジーキル博士とハイド氏』      136

「超人」の思想とニヒリズム                          139

第八章 他者の発見――新しい「知」の模索                145~162

流れ出る血の意味                                    145

「正教」の理念――ソーニャ                         148

共存の構造                                          151

感情の力                                            155

民衆の英知                                          158

第九章 「鬼」としての他者――人類滅亡の悪夢            163~182

残された矛盾                                        163

権力への意志の実践――『わが闘争』                  165

権力への服従――『自由からの逃走』                  168

文明の衝突――「正義」の戦争                        170

「鬼」としての他者――「自己」としての民族          173

「共ー知」としての良心                              178

第十章 「他者」としての自然――生命の輝き              183~199

最後の謎――うっそうたる森林                        183

「自然支配」の思想                                  184

「非凡人」思想と地球環境                            188

「自然界の調和」の思想―― 多様性の意味            191

ラスコーリニコフの復活                              196

注/参考文献/あとがき

ドストエフスキー関連年表/ナポレオン関連年表/人名索引

「あとがき」より。

⇒『「罪と罰」を読む―「正義」の犯罪と文明の危機』(刀水書房、1996年)

訂正

 下記の箇所をお詫びして訂正いたします。

102頁後から2行目  市街→ 死骸 123頁1行目

第四部に入ってから→ 第三部の終わりの場面

 

書評と紹介

(ご執筆頂いた方々に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

〔新版〕

書評 清家清氏『異文化交流』第3号、2000年

書評 岡村圭太氏『ドストエーフスキイ広場』、2001年

紹介 小林銀河氏 「日本人の宗教意識とドストエフスキー研究」 「スラブ・ユーラシア学の構築」研究報告集、第10号

紹介 「白バラ図書館」(HP)

〔旧版〕

書評 木下豊房氏『比較文明』第13号、1997年

書評 渡辺好明氏『ドストエーフスキイ広場』第6号、1996年

書評 石井忠厚氏『文明研究』第6号、1996年

紹介 『出版ニュース』1996年

東海大学外国語教育センター編『若き日本と世界ーー支倉使節から榎本移民団まで』(東海大学出版会、1998年)

鎖国前夜の支倉使節から、開国後の榎本移民団まで、「使節と移民」をキイワードに、激動の時期の世界を舞台に、荒海を渡って異文化との接触を果たした人々の活動とその意味に迫る。登場するのは支倉常長、高杉晋作、榎本武揚、クーデンホーフ・光子、シーボルト、ラングスドルフ、ゴンチャローフら。

 

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目次

序にかえて ――海を渡った人々  田中信義

海を渡ったサムライたち ――支倉常長らの見たヨーロッパ  太田尚樹

江戸の特使に謁見する ――G・H・v・ラングスドルフ  金井英一

日本の開国とクリミア戦争 ――作家ゴンチャローフが見た日本と世界  高橋誠一郎

シーボルト その人と生涯 ――医師・日本研究者・外交的活動家としての足跡をふりかえりながら  沓沢宣賢

高杉晋作の見た上海 ――中国の半植民地化と日本  中野謙二

明治の「天皇づくり」と朝鮮儒学 ――元田永孚の日本改造運動を読み直す  小倉紀蔵

労働運動に夢をかけた日米の男たち ――移民史の視点から    米澤美雪

ECの母 クーデンホーフ・光子 ――言語と人生観  入谷幸江

メキシコにおける日系移民とアイデンティティ ――榎本植民地建理想から百年を経て  角川雅樹

本書関連年表/人名索引

 

「あとがき」より

『若き日本と世界--支倉使節から榎本移民団まで』をお届けする。

ここでは現代の日本と諸外国とのかかわりを考える上でも重要な、鎖国から開国への流れを中心に日本と諸外国との交流の様々な局面を取り上げた。(中略)

この書物において取り上げた多くの人々は、船という乗り物で荒波を越えて渡航し、文化の違いに大きな驚きを覚えている。飛行機が発達し、テレビという媒体で他国のことも見られる現代においては、このような感覚はもはや過去のものに見えるかもしれない。しかし、旧ユーゴスラヴィアなどの紛争に顕著に現れたように、現代においても各国の文化や慣習の差異、さらには歴史認識の違いを克服することはそれほど簡単なものではない。重要なのは、「自己」と「他者」の違いを冷静に認識するとともに、熱い心で「自己」を主張し、「他者」のよさをも知ろうとする姿勢であろう。

今回は「使節と移民」を副主題としたので、時代や国は異なってもシーボルト、吉田松陰、高杉晋作、榎本武揚、福沢諭吉といった人物や、仙台と長崎のような共通の都市、さらにはアヘン戦争など、個々の論文を有機的に結ぶキイワードも多く存在する。研究例会の活動を続ける中で、自分のテーマを深めると共に、他の筆者とのつながりも確認したが、思いがけぬ関連に驚くこともしばしばあった。このような新鮮な驚きを読者の皆様にも味わって頂ければ幸いである。(後略)

リチャード・ピース 著、池田和彦訳、高橋誠一郎編『ドストエフスキイ「地下室の手記」を読む』(のべる出版企画、2006年)

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目次

日本の読者の皆様へ

序論 ロシアにおける自由の概念

 

『地下室の手記』を読む

Ⅰ 作品の背景

一、文学的背景

二、論争の背景

Ⅱ 『地下室の手記』注釈

第一部注釈

一.悪意 /二.意識 /三.壁 /四.病、苦痛 /五.責任と原因 /六.すべて美にして崇高なるもの /七.自己利益 /八.欲望   / 九.二かける二 /一〇.水晶宮 /一一.作者対読者

第二部注釈

Ⅲ 批評史・研究史

原注・訳注

付論 

日本における『地下室の手記』――初期の紹介とシェストフ論争前後  池田和彦

『地下室の手記』の現代性――後書きにかえて  高橋誠一郎

参考文献/索引

書評

(この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

書評 木下豊房氏『ドストエーフスキイ広場』第16号、2007年

(木下豊房ネット論集『ドストエフスキーの世界』www.ne.jp/asahi/dost/jds/dost200.htm所収)

*   *   *

日本の読者の皆様へ

ミレニアム・イヤーにあたる二〇〇〇年に、私は千葉大学でのドストエフスキイ研究集会に参加する栄をえました。たくさんの研究者が加わったこの研究集会の成功は、ドストエフスキイにたいする世界的な関心を語るだけでなく、日本においてドストエフスキイが高く評価されていることを明らかに示すものでした。

じっさいドストエフスキイは私たちの現代社会に示唆するところが多く、『地下室の手記』はドストエフスキイの鍵となる作品で、西欧文明の饒舌な思いあがりや価値観にたいする数多くの批判を提供しています。ロシアの視点から書いていたドストエフスキイは、ロンドンでの万国博に代表されるような科学や功利主義、そして一九世紀の貿易の「グローバリゼーション」が文明化を促進させる原動力であると見る西欧のオプチミスムを必ずしも共有していませんでした。(中略)

『地下室の手記』が一八六四年にはじめて発表されたとき、ロシアはすでに西欧流の改革のプログラムにのりだしていました。ドストエフスキイは、「地下室」の主人公をつうじて、ロシア社会の発展についてだけでなく、西欧の価値観そのものに多くの懸念を表明することができました。(後略)

リチャード・ピース(Richard Peace)

リンク→「『地下室の手記』の現代性――後書きに代えて」

『ロシアの近代化と若きドストエフスキー ――「祖国戦争」からクリミア戦争へ』(成文社、2007年)

59l(←画像をクリックで拡大できます)

『白夜』第一部の題辞

「驚くべき夜であつた。親愛なる読者よ、それはわれわれが若いときにのみ在り得るやうな夜であつた。空は一面星に飾られ非常に輝かしかったので、それを見ると、こんな空の下に種々の不機嫌な、片意地な人間が果して生存し得られるものだらうかと、思はず自問せざるをえなかつたほどである」(米川正夫訳)

目次

はじめに――「祖国戦争」とドストエフスキーの父ミハイル

「ナポレオンのテーマ」/「謎」としての人間/「イソップの言葉」

 

序章  近代化の光と影――「祖国戦争」の勝利から「暗黒の三〇年」へ

一、ナポレオンのロシア侵攻とドストエフスキーの父ミハイル

医学生ミハイル/ピョートル一世の教育改革とミハイル/「文明」による「野蛮の征伐」/「聖戦」意識の芽生え――ロシアのナショナリズム

二、『知恵の悲しみ』――青年貴族たちの苦悩

「諸国民の解放戦争」と青年将校/喜劇『知恵の悲しみ』と世代の考察/新しい知識人の登場/改革の負の側面とその批判/プーシキンの政治詩「自由」/デカブリストの乱と「暗黒の三〇年」

三、「立身出世主義」の光と影――父ミハイルとロシアの知識人

父ミハイルの出世とロシア貴族の考察/検閲の問題/マサリクのドストエフスキー観

 

第一章 父ミハイルと若きドストエフスキー

一、領地の購入と農奴制の問題との直面――「小ツァーリ」としての地主

母マリア/領地の購入/村の大火と母の病気

二、ロシアの「教育改革」とドストエフスキー ――寄宿学校で

ポーランドと ウクライナの「教育改革」/ロシアの「教育勅語」/チェルマーク寄宿学校

三、文学との出会い――語学教師ビレーヴィッチとロシア文学への関心

語学教師ビレーヴィッチとゴーゴリ/自己の表現力と母国語

四、知識人の悲劇――『哲学書簡』の発禁とプーシキンの死

「西欧派」と「スラヴ派」の誕生/プーシキンの決闘と死/『青銅の騎士』と「発狂」のテーマ/哲学(愛・知)への関心

五、ドストエフスキーと『知恵の悲しみ』――ロシア知識人の考察

『知恵の悲しみ』とその上演/長編小説『未成年』と『知恵の悲しみ』/ 作品を解く鍵としての『知恵の悲しみ』/「官等と勲章」の問題

六、「方法」としての文学ーー父の横死と文学への志

工兵学校への入学/社会の不平等さとの直面/ラジーシチェフとプーシキン/文学作品の読書と習作の試み/バルザックの作品の翻訳と作家への道

 

第二章 自己と他者の認識と自立の模索――『貧しき人々』

一、方法としての対話――「文学」の二義性

書簡体という形式/「教訓を与える」文学/「いじめ」の問題/『駅長』/自己認識の深まり

二、『貧しき人々』の核――ワルワーラの「手記」

村と都市との対比/隠された「自由思想」/隠された「父と子」のテーマ/権力者としての教師/学校制度と「いじめ」の問題/外国語学習と「自己」の確立

三、「模倣」と「身分」

「誤読」の問題/上位者の「模倣」と「恩恵」/プライヴァシーの侵害/「公」と「個」の問題/官僚制度の腐敗と「沈黙」」/新しい女性/「罪の懺悔」と検閲/共感の能力/題名の意味

四、残された問い――終わり方の問題をめぐって

裁判の勝訴と突然の死/シベリアのテーマ/終わり方の問題/ドブロリューボフの指摘

 

第三章 欲望と権力の考察――『分身』と初期作品をめぐって

一、『貧しき人々』から『分身』へ――ベリンスキーの評価をめぐって

評論家ベリンスキーとの出会い/「笑い」という手法/ドストエフスキーの現実認識

二、「立身出世の望み」と「欲望の模倣」――『分身』

二重人格の心理/脱落の恐怖/「三角形の欲望」/「仮面」のテーマ/「賭け」の失敗/「噂」の効能/同じ人間の大量生産

三、権力と法の考察――「雪解け」の可能性の時代

『プロハルチン氏』/「自由思想家」という噂/ペトラシェフスキーの会/『ロシア人作家についての歴史辞典の試み』

四、権力と「父親殺し」のテーマ――『プロハルチン氏』、『家主の妻』

『けちな騎士』/「父親殺し」のテーマ

五、ゴーゴリとベリンスキーの論争――「臣民の道徳」をめぐって

『友人達との往復書簡選』/「キリル・メトディ団」の逮捕/ベリンスキーの手紙/『ステパンチコヴォ村とその住民』

 

第四章 『白夜』とペトラシェフスキー事件

一、『ペテルブルグ年代記』から『白夜』へ――「夢想家のテーマ」の深まり

二月革命後とロシア/『ペテルブルグ年代記』/「夢想家」の考察/詩人プレシチェーエフへの献辞

二、「道化」に秘められた意志――『ポルズンコフ』

『知恵の悲しみ』からの引用/ポルズンコフとレペチーロフ

三、「良心」の痛みと改革への決意――『弱い心』

『青銅の騎士』と『弱い心』/「心の裁判官」としての「良心」/削除された「自由思想家」

四、『白夜』に隠された「農奴解放」のテーマ

ロシアの二重性/虐げられた農奴の娘/「謎の下宿人」とオネーギン/『コロムナの小家』の秘密/「夢想家」と「行動的な改革者」/評論集『打ちひしがれた人々』/『その前夜』の構造と『白夜』/『白夜』から『地下室の手記』へ

五、ペトラシェフスキー事件――ロシアの「大逆事件」

独房への収監と訊問/検閲制度の批判/『小さな英雄』/「不在化」するための言葉/死刑の宣告と恩赦/ハンガリー出兵とクリミア戦争

 

終章  日本の近代化とドストエフスキーの受容

一、クリミア戦争と日本の「開国」

ロシアからの黒船/ピョートル大帝の改革と日本/方法としての「発狂」

二、日露戦争後の日本と「大逆事件」

『アンナ・カレーニナ』と非戦論/徳冨蘆花と「勝利の悲哀」/夏目漱石と「大逆事件」/『沈黙の塔』と「謀叛論」

三、日本の帝国化と「教育改革」

『復活』の上演と『虐げられた人々』/徳富蘇峰の「教育改革」論/「芥川龍之介の『河童』と狂気の問題

四、「大東亜戦争」と後期ドストエフスキー

『若き日の詩人たちの肖像』と『白夜』/『罪と罰』の解釈と「大東亜共栄圏」/ダニレフスキーの文明観とドストエフスキー/マサリクの『作家の日記』批判/『罪と罰』の現代的意義

注/ 人名索引/事項索引/ 関連年表/ あとがき

リンク→「暗黒の三〇年」と若きドストエフスキー(「はじめに」より)

 リンク→「新しい戦争」の時代と「憲法」改悪の危険性(「あとがき」より)

 

書評と紹介

(ご執筆頂いた方々に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

‘12.03.08 書評 『異文化交流』(三宅正樹氏)

‘09.03.10 書評 『比較文明』(黒川知文氏)

‘08.05.31 書評 『異文化交流』(杉里直人氏

‘08.04.19 書評 『ドストエーフスキイ広場』(大木昭男氏)

‘08.03.31 書評 『比較文学』(西野常夫氏)

‘08.03.31 書評 『比較思想研究』(寺田ひろ子氏)

‘07.11.04 書評 『しんぶん赤旗』(木下豊房氏)

‘07.10.27 書評 『図書新聞』(「O」氏)

‘07.09.26 書評 『聖教新聞』(「哨」氏)

‘07.09.11 紹介 『出版ニュース』9月中旬号

‘07.09.01 紹介 『望星』10月号

(成文社のHPより)

『司馬遼太郎と時代小説――「風の武士」「梟の城」「国盗り物語」「功名が辻」を読み解く』 (のべる出版企画、2006年)

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目次

はじめに 司馬遷の『史記』と司馬遼太郎

一、司馬遼太郎というペンネーム

武田泰淳の『史記』論 /時代小説と「列伝」という手法

二、「大衆文学」と歴史認識

桑原武夫の「大衆文学」観/「おとぎ話」と「司馬史観」

序章 「司馬史観」の生成――『風の武士』と初期の短篇  

一、「辺境」への関心――「ペルシャの幻術師」と「戈壁(ごび)の匈奴」

「刺客列伝」と初期の暗殺者たち/ペルシャの幻術とインドの婆羅門教/シルクロードと異文化(文明)の交流/ 海音寺潮五郎の司馬評価

二、『風の武士』の時代背景――幕末の「攘夷思想」と桃太郎譚

ペリー艦隊の来日と「攘夷思想」/「伝奇小説」と「おとぎ話」/天狗の出現

三、日本文明の原形への関心とかぐや姫譚

丹生津姫命(にぶつひめ)絵巻とかぐや姫譚/柘植信吾と安羅井人/緒方洪庵の弟子・早川夷軒/  黒潮の流れと異民族の漂着/『風の武士』における街道/ 武内宿禰と「三韓征伐」

四、アイデンティティの危機と新しい歴史観の模索

鏃(やじり)の感触と異民族への関心/「馬賊の唄」と蒙古語の学習/  学徒出陣と小説への思い/ 敗戦の体験と新しい歴史観の模索

五、異国の体験と浦島太郎譚

「国栖ノ国」と「穴居人」/流浪のユダヤ人と安羅井国/  柘植信吾の帰還と浦島伝説

六、異文化(文明)の交流への関心――日本文明の多元性

海音寺潮五郎の「蒙古来る」と「兜率天の巡礼」/ 秦氏と広隆寺

 

第一章 時代小説の原点――『梟の城』と忍者小説    

一、伊賀の歴史と『梟の城』の時代背景

伊賀の風土と「街道」/ 織田信長の「伊賀征伐」/報復としての「暗殺」/今井宗久と前田玄以

二、アイデンティティの危機と新しい生き方の模索

『梟の城』と忍者ブーム/  政商今井宗久と小西隆佐/  二つの価値観/葛籠重蔵と宮本武蔵/  武士と立身出世

三、「朝鮮征伐」と報復としての暗殺

「朝鮮征伐」の考察/  金権政治と戦争/ 風間五平の挫折/ 暗殺者としての重蔵

四、テロリズムの克服

暗殺者から観察者へ/忍者の修業と山伏の修業/ 題名の二重性/「英知」の象徴としての「梟」

五、『梟の城』から長編『宮本武蔵』へ

直木賞と『梟の城』/ 司馬遼太郎の吉川英治観/「大衆文学」と歴史認識/従者としての武士の批判/「真説宮本武蔵」から『宮本武蔵』へ/

六、司馬遼太郎の戦国観

学校教練と『宮本武蔵』/山中峯太郎の冒険小説と『坂の上の雲』/ 「サムライ史観」の批判/司馬遼太郎と葛籠重蔵

 

第二章  乱世の「英雄」と「天命史観」――『国盗り物語』(斎藤道三)と『史記』

一、乱世の梟雄・斎藤道三

氏素性の否定/ 漢帝国の創始者・劉邦の出自/  「僭称者」としての斎藤道三

二、油問屋の奈良屋――中世の商業と女性の地位

『国盗り物語』と「貨殖列伝」/女性の財産と立身出世/「司馬史観」と女性/有力神社と専売権/「神人」の批判から楽座へ

三、斎藤道三と「天命史観」

美濃と壬申の乱/ 斎藤道三と豪商・呂不韋/「天命史観」と天守閣/占いと「日者列伝」

四、乱世の「英雄」と「非凡人の思想」

斎藤道三とマキャベリ/乱世と「非凡人の思想」/観察者としてのお万阿/道三と呂不韋の挫折

五、権力の継承と「分身」のテーマ

織田信長と明智光秀/濃姫をめぐるライバル関係/「坂の上」というキーワード

 

第三章 「天下布武」と近代国家――『国盗り物語』(織田信長)と『夏草の賦』 

一、「革命家」としての織田信長

サンスケという名前/国際都市・堺/ 織田信長とナポレオン

二、ライバルとしての明智光秀

足利幕府の再興と明智光秀/細川藤孝と明智光秀/ 明智光秀の織田信長観/道具としての部下/ 猟師と猟犬の喩え

三、「中央」と「辺境」の考察――『夏草の賦』

千代と菜々の土佐観/ 土佐の豪族と渡来人/信長の外交政策と元親/ナショナリズムと「国民意識」/信長と始皇帝の外交政策/「突撃の思想」の考察

四、中世の「グローバリゼーション」と織田信長

「天下布武」の印と「馬揃え」/ レコンキスタからナポレオン戦争へ/ 比叡山の焼き討ちと織田信長/「おとぎ話」的な世界理解/織田帝国のアジア政策

五、帝王としての織田信長

権力者と側近/「支配と服従」の心理/ 暗殺者としての明智光秀/「神」になろうとした男・信長/ 信長から秀吉へ

 

第四章 「鬼退治」の物語の克服――『功名が辻』の現代性

一、司馬作品と読み解く鍵としての『功名が辻』

「列伝」としての『功名が辻』/千代の変化/司馬の作風と単語の意味の二重性

二、作品前半の「おとぎ話」的な構造

理想の上司としての秀吉/「坂の上の鬼」との戦い/功名の手段としての戦い/泉州唐国という地名/戦国時代の主従関係/叩き上げの武将としての秀吉

三、新しい女性としての千代

千代の芸術的才能/千代の文才/ 馬揃えと桃太郎譚/情報の重要性/殺さない武将としての秀吉

四、「英雄」の「愚人」化

秀吉と信長の関係/ 秀吉の演技力と天下取り/立身出世主義の影/千代と寧々/捨て子「拾君」と養子「秀次」

五、「朝鮮征伐」と桃太郎譚の誕生

キリシタンの禁制と桃太郎譚/「朝鮮征伐」と桃太郎譚/「朝鮮征伐」と『故郷忘じがたく候』/「朝鮮征伐」における言語政策

六、「土佐征伐」と「正義の戦争」の否定

豊臣政権の崩壊と千代/「土佐征伐」と桃太郎的な自意識/桃太郎譚と近代の歴史観/千代と「マクベス夫人」/洞察者としての千代

 

終章 戦争の考察と「司馬史観」の構造――『竜馬がゆく』から『坂の上の雲』へ

一、薩長同盟から大政奉還へ――『竜馬がゆく』

「長州征伐」の批判/幕末の国際情勢と龍馬の世界観/龍馬の死と

正岡子規の誕生

二、日英同盟の評価から批判へ――『坂の上の雲』

「文明開化」と日英同盟/大国との軍事同盟の危険性/秦と大英帝国の

外交政策/『坂の上の雲』と『功名が辻』の構造/『菜の花の沖』と

江戸期の再評価/「文明国」の二重基準への反発

三、核兵器の時代の平和観――「二十一世紀に生きる君たちへ」

グローバリゼーションとナショナリズム/中江兆民の文明観と平和憲法/

比較文明学と「司馬史観」/「二十一世紀に生きる君たちへ」

関連年表/参考文献/あとがき

 

書評と紹介

(ご執筆頂いた方々に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

書評 『比較文明』第23号(服部研二氏)

書評 『異文化交流』第8号(金井英一氏)

 

 *   *   *

「あとがき」より

二〇〇六年にNHKの大河ドラマで『功名が辻』が放映されることを知ったとき、なんとか放映中に『功名が辻』論を含む司馬の時代小説を論じた著書を書き上げたいと強く思った。それはNHK衛星放送で放映され好評を博した『宮廷女官 チャングムの誓い』と同じように一六~七世紀の女性を主人公としながらも、陰謀や戦争によって一族の栄達をはかろうとすることへの厳しい批判精神を秘めているこの時代小説を読み解くことは、これまで拡がった「司馬史観」への誤解を解き、司馬の代表作の一つである『坂の上の雲』への理解を深めるよい機会だと思えたからである。

さらに、司馬遷を深く敬愛した司馬遼太郎の時代小説を読み解くには、戦国時代から家康による天下統一までの時期を扱った一連の作品を「列伝的な視点」で分析する必要があるだろうと考えていたが、その意味でも戦国の梟雄と呼ばれた斎藤道三を主人公の一人とした『国盗り物語』から信長、秀吉、家康という三代の権力者に仕えた山内一豊・千代夫妻を主人公とした『功名が辻』に至る時代小説を分析することで、司馬の時代小説が持つ「列伝」的な構造を明らかにすることができるだろうと考えたのである。

それゆえ、急遽思いついたという事情もあり、本書の執筆はつねに時間に追われながらのきつい作業となったが、その一方で、大学に入ってから読んだ司馬の時代小説に、『史記』からの影響やドストエフスキー的な要素を色濃く見い出して、興奮しつつ読みふけっていた三〇年以上も前の頃が鮮やかに思いだされ、その時の感動を再び味わいながら、感動の理由を改めて考察することができ、充実した時を過ごすことができた。(中略)

『風の武士』を論じた本書の序章では、司馬の古代中国やペルシャ文明への深い関心や日韓の歴史的な深いつながりにも言及したが、比較文明学的な広い視野で乱世における戦争の問題から目を背けることなく凝視し続けた司馬の作品を考察した本書を通じて、新しい希望や理念を若い世代に伝えることができれば幸いである。(後略)

『司馬遼太郎の平和観――「坂の上の雲」を読み直す』(東海教育研究所、2005年)

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「目次」

はじめに――「平和論」の構築と『坂の上の雲』

序章 『坂の上の雲』と「司馬史観」の深化

一、『坂の上の雲』と「辺境史観」

二、事実の認識と「司馬史観」の深化

三、「司馬史観」の連続性と「皇国思想」の批判

四、「司馬史観」の深化と「国民国家」史観の批判

五、比較という方法と「司馬史観」の成熟  

第一章 「国民国家」の成立――自由民権運動と明治憲法の成立

一、「皇国」から「国民国家」へ――坂本竜馬の志

二、江戸時代の多様性と秋山好古

三、福沢諭吉の教育観と「国民国家」の形成

四、二つの方向性――「開化と復古」

五、自由民権運動と国会開設の詔勅

六、自由民権運動への危惧――「軍人勅諭」から「教育勅語」へ

第二章  日清戦争と米西戦争――「国民国家」から「帝国」へ

一,軍隊の近代化と普仏戦争

二,「文明・半開・野蛮」の序列化と「福沢史観」の変化

三、日清戦争と参謀本部――蘆花の『不如帰』と『坂の上の雲』

四、秋山好古と大山巌の旅順攻略――軍備の近代化と観察の重要性

五、立身出世主義の光と影

六、日清戦争の勝利と「帝国主義」――徳富蘇峰と蘆花の相克

七、米西戦争と「遅まきの帝国主義国」アメリカ

第三章  三国干渉から旅順攻撃へ――「国民軍」から「皇軍」への変貌

一、三国干渉と臥薪嘗胆――野蛮な帝国との「祖国防衛戦争」

二、「列強」との戦いと「忠君愛国」思想の復活

三、方法としての「写実」――「国民国家」史観への懐疑と「司馬史観」の変化

四、先制攻撃の必要性――秋山真之の日露戦争観

五、南山の死闘からノモンハン事件へ――軍隊における藩閥の考察

六、旅順の激戦と「自殺戦術」の批判――勝つためのリアリズム

七、トルストイの戦争批判と日露戦争――「情報」の問題と文学

第四章  旅順艦隊の敗北から奉天の会戦へ――ロシア帝国の危機と日本の「神国化

一、極東艦隊との海戦と広瀬武夫――ロシア人観の変化

二、提督マカロフの戦死――機械水雷と兵器についての考察

三、バルチック艦隊の栄光と悲惨――ロシア帝国の観察と考察

四、情報将校・明石元二郎と「血の日曜日事件」――帝政ロシアと革命運動

五、日露戦争と「祖国戦争」との比較――奇跡的な勝利と自国の神国化

六、奉天会戦――「軍事同盟」と「二重基準」の問題

第五章 勝利の悲哀――「明治国家」の終焉と「帝国」としての「皇国」 

一、日本海会戦から太平洋戦争へ――尊王攘夷思想の復活

二、バルチック艦隊の消滅と秋山真之の憂愁――兵器の改良と戦死者の増大

三、日露戦争末期の国際情勢と日比谷騒動――新聞報道の問題

四、蘆花のトルストイ訪問と「勝利の悲哀」――日露戦争後の日本社会

五、大逆事件と徳富蘇峰の『吉田松陰』(改訂版)

六、「軍神」創造の分析――『殉死』から『坂の上の雲』へ

終章 戦争から平和へ――新しい「公」の理念

一、日露戦争後の「憲法」論争と蘇峰の『大正の青年と帝国の前途』

二、「愛国心」教育の批判と『ひとびとの跫音』

三、『坂の上の雲』から幻の小説『ノモンハン』へ

四、「昭和初期の別国」と「大東亜戦争」――統帥権の考察

五、「共栄圏」の思想と強大な「帝国」との戦争

六、「自国中心史観」の克服――「特殊」としての平和から「普遍」としての平和へ

あとがき/主要登場人物、生没年/簡易年表/引用文献と主な参考文献

 

書評と紹介

(ご対談とご執筆頂いた方々に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

(特別対談) 「『坂の上の雲』から見えるもの―― 司馬遼太郎の「平和観」をめぐって」『望星』8月号(伊東俊太郎氏)

書評 『比較文明』第21号(神川正彦氏)

書評 『異文化交流』第七号(田中信義氏)

紹介 『司馬遼太郎の平和観―「坂の上の雲」を読み直す―』(杉山文彦氏、2005年)

紹介 『東海大学新聞』(2005年、5月5日号)

   *   *

関連記事 高橋「教科書に採用されにくかった大作群」『ダカーポ』(2005年8月17日号)

*   *   *

「はじめに」より

司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』における歴史観をめぐっては、生前から論争が起きていましたが、イラク戦争の影響や東アジア状勢の緊張を受けて、「“坂の上の雲”をめざして再び歩き出そう」という勇ましいタイトルでの対談が雑誌に掲載されるなど、『坂の上の雲』を「日露戦争」を賛美した小説とする言論が再び増えています。 (中略)

しかし、司馬は『坂の上の雲』の終章を「雨の坂」と名付けることで、“坂の上の雲”が日露戦争後には明るい白雲から、「国を惨憺(さんたん)たる荒廃におとし入れた」「大東亜戦争」にまで続く黒い雨雲に変わっていたことを象徴的に示していました。(中略)

司馬遼太郎の弟分とも見なされるほどに親しかった後輩の青木彰氏は、司馬の「ファンと称する政治家、官僚、財界人といった人々」が、司馬作品を誤読していることに対して、「もっとちゃんと読めばいいのにと私は思いますが」と厳しい苦言を呈しています(『司馬遼太郎と三つの戦争――戊辰・日露・太平洋』朝日新聞社)。

『坂の上の雲』をきちんと読み直すことは、「自国の正義」を主張して「愛国心」などの「情念」を煽りつつ「国民」を戦争に駆り立てた近代の戦争発生の仕組みを知り、「現実」としての「平和」の重要性に気づくようになる司馬の歴史認識の深まりを明らかにするためにも焦眉の作業だと思えます。    

『この国のあした――司馬遼太郎の戦争観』(のべる出版企画、2002年)

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「目次」より

はじめに――「新しい戦争」と「グローバリゼーション」

第一章 激動の時代とアイデンティティの模索――『竜馬がゆく』

ペリー艦隊の来航と幕末の日本

福沢諭吉の文明観と方法としての比較

英雄化と神話化――『竜馬がゆく』と『白痴』

「国民」の成立――勝海舟と坂本竜馬

「正義」とテロリズムの考察

「美学」から「事実」へ――「叙述の方法」と作風の変化

二つの方向性――「開化」と「復古」

第二章  「文明の衝突」と「他者」の認識――『坂の上の雲』

「国民国家」の成立と教育制度

教育における「欧化と国粋」の対立

前期「司馬史観」と後期「福沢史観」

ロシア認識の深まり――方法としての「写実」

日本の鏡としてのロシア――「他者」と「自己」の認識

「坂の上の雲」の彼方に――「雨の坂」

第三章  「国民国家」史観の批判――『沖縄・先島への道』

「琉球王朝」の考察――周辺文明論の視点から

アイデンティティの危機と歴史認識

日本文化論の変容と「司馬史観」の変化

近代的な教育と戦争

「正義」の戦争と「野蛮」の征伐

「報復の権利」と「復讐」の連鎖

「多様性」の考察――方言とヤポネシア論

第四章 「文明の共生」と「他者」との対話――『菜の花の沖』

黒潮の流れが結ぶ世界――『菜の花の沖』の構造

江戸期の日本とロシアの比較――高田屋嘉兵衛の時代

「文明」と「野蛮」の考察――周辺文明論的な視点から

高田屋嘉兵衛の国家観と「江戸文明」の独自性

比較文明学的な視野と言語の問題

多様な価値の認識――方法としての対話

第五章 「公」としての地球――司馬遼太郎の文明観

「文明開化」とグローバリゼーション

「ひとびと」の認識――坂本竜馬から中江兆民へ

二つの憲法――明治憲法と平和憲法

他者の認識――「公」としての「自然」

注/  引用・参考文献

書評と紹介

(ご執筆頂いた方々に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

書評 『比較文明』第19号(米山俊直氏)

書評 『比較思想』第30号(寺田ひろ子氏)

書評 『異文化交流』第7号(金井英一氏)

紹介 『異境』第18号(来日ロシア人研究会)

紹介 『軍事問題資料』(2003年)

 

*   *   *

「あとがき」より

『竜馬がゆく』を学生時代に読んだ私は、それまでの時代小説にはなかったような雄大な構想に魅了された司馬氏の作品を愛読するようになった。ただ、すべての作品を丹念に読むという熱心な読者ではなく、その時々に暇を見つけては本屋の棚に並んでいる氏の作品を買って読むというタイプの気まぐれな読者だったし、司馬氏の豊かな想像力に感心していただけでもあった。

しかし、日露戦争を描いた長編小説『坂の上の雲』を読み終えた後では、歴史上の人物を描き出す氏の視線が、日本やロシアという国家そのものへの問いと直結していたことを知り、さらに、日露戦争の危機もはらんでいた二つの異なる文明国の接触を未然に防いだ江戸時代の商人、高田屋嘉兵衛の生涯を描いた『菜の花の沖』を読んだ時には、想像力を羽ばたかせて書いていた以前の時代小説的な作風から、時代考証に支えられた重厚な作風に変わってきていることに驚かされ、その周辺文明論的な視野の広がりと深まりに感嘆した。こうして、『ロシアについてーー北方の原形』を読んだ時には、氏の文明観を一度きちんとした形で考察せねばならないと感じた。残念ながら、それを果たせないうちに司馬遼太郎氏が突然亡くなられ、私は「文明史家司馬遼太郎の死を悼む」という短文を同人誌に発表した。

(中略)

価値が混沌とした時代には、自国の「正義」を強調することにより、「戦争」へ駆り立てようとする「威勢の良い」著作や論調が、戦時下の法制によって国内の腐敗を隠しつつ、強圧的な形で世論の統一を図ろうとする権力者によって重宝される。

しかし、戦時中に戦争の終結を謀ったことで、東条英機の怒りを買い二等兵として召集され、南方戦線へと飛ばされた松前重義・前東海大学総長は、生還した後には教育をとおして平和と共存の理念を高く掲げた。

高田屋嘉兵衛や坂本竜馬のように、自分の生命をも危険にさらしながら平和の可能性を真剣に模索した勇気ある人々こそが、新しい時代を切り開いてきたことを深く心に刻んでおきたい。

(後略)

*   *   *

リンク先

リンク→『この国のあした――司馬遼太郎の戦争観』(人名・書名索引)

リンク→『この国のあした――司馬遼太郎の戦争観』(事項索引)

 訂正

 下記の箇所をお詫びして訂正いたします。

8頁後から2行目  外国語大学→ 外国語学校

64頁1行目 秋古→ 好古

後ろから6行目 好古に→ 好古は

102頁4行目 (石垣・竹富島)→トルツメ

118頁後ろから4行目 いること→ いるの

130頁6行目 水面しかない湖→ 潮

後から5行目 龍馬→ 竜馬

137頁後から7行目 龍馬→ 竜馬

149頁後から6行目  国に→「国に

184頁2行目 文章日本→ 文章日本語

186頁後から2行目 ことを事を計らず→ を計らず

200頁11行目 追加、一九八五年、四六~八頁

204頁8行目 拝外と拝外→ 拝外と排外

『「竜馬」という日本人――司馬遼太郎が描いたこと』 (人文書館、2009年)

ISBN978-4-903174-23-5_xl(←画像をクリックで拡大できます)

 

目次

序 物語のはじまり――竜馬という”奇蹟”

「開国」と「攘夷」/  世界史への視野/ロシアと日本の近代化の比較/「ヨコの関係」の構築/イデオロギーフリーの立場で/最初の「日本人」/本書の構成

 

第一章  幕末の風雲――竜馬は生きている。

一、旅立ち

千里の駿馬/「辺境」から/街道と海と

二、あれはぶすけじゃ

”乱世の英雄”のようなお人/劉邦と竜馬/大勇の人/浜辺の光景

三、歴史はときに、英雄を欲した――「虚構」と「史実」と

辻斬りと泥棒/梟は夜飛ぶ/カーニバルとしての剣術試合/ 道場と私塾と

四、「鬼」と「友」

黒船来航/「鬼」としての他者/小五郎との友情

五、詩人の心

夢想剣/黒猫にあらず/大地震と「公」としての地球/竜馬と松陰

 

第二章  ”黒船”という新文明――「開国」か、「攘夷」か

一、松陰吉田寅次郎という若者

新しい時代を招き寄せる/おさない兵学者/アヘン戦争の衝撃/山坂からの光景

二、「地を離れて人なし」

平戸への旅/「古に倣えば今に通せず」/「友」との出会い/脱藩/

奥羽の国への旅/「師」象山先生の門に入って

三、ロシアという隣国

”黒船を見たか見なんだか”/ロシアからの黒船/ロシアから見たアヘン戦争/ロシア人作家の日本観/米艦搭乗、密航失敗/二人の政治犯/

四、監獄という空間

野山獄中でのくさぐさ/わが新獄「福堂論」――獄にあらず、福堂である。/松陰の恋歌

五、「国ヲ救イ民ヲ済ウ」という電磁

久坂玄瑞と高杉晋作/「寺子屋」のような塾/手製の新聞/「普遍性への飛翔」の可能性

 

第三章 竜馬という存在――桂浜の月を追って

一、黒潮の流れと日本人の顔

義兄の蘭医/ロシアからの漂流民/碧い瞳の日本女性/  土佐の「かぐや姫」

二、  ”開墾百姓の子孫”

〝桂浜の海鳴り〟/〝この世の借り着〟/土佐・風土・思想/”古き世を打ち破る”  /”押しかけ師匠”/ 無銭旅行/ 歴史を発酵させた「美酒」  / 皇国の在り処

三、「謀反人」竜馬

「公」としての藩/「公」と「私」/人を酔わせる「美文」/”土佐にあだたぬ男”

四、”日本歴史を動かすにいたる”感動

オランダ憲法/ 天は人の上に人を造らず/「両頭の蛇」の家/頑固家老/  絵師と軍艦/ 新しい船出

 

第四章 「日本人」の誕生――竜馬と勝海舟との出会い

一、詩人的な予言者

松陰の義弟/日本史最初の革命宣言/狂人になること/松陰と晋作――獄中からの「垂訓」/「花咲爺」への変貌/ 「狂生」を名乗る男/「対馬事件」の衝撃

二、「浪人」という身分

”航海遠略策”/脱藩(くにぬけ)/弥太郎の決意/”ローニンという日本語”

三、「日本第一の人物勝麟太郎」

「貧乏御家人」の息子/ 夷臭の男/ 万次郎との出会い/最初の「日本人」/「日本人」の条件/

四、日本革命の大戦略

上海への洋行/革命への導火線/モデルとしてのアメリカ独立戦争/「勤王の志士」

五、勝大学

脱藩者の先生/ 偽学生/ 「鯨海酔侯」との直談判 / 学長・勝

 

第五章 ”おれは死なぬ。”――「文明」の灯をともす

一、”暗ければ民はついてこぬ”

「京都守護職」/「天誅」という方法/勝海舟・暗殺未遂/”日本のワシントンになるんじゃ”

二、神戸海軍塾

刀をめぐる口論と月琴を弾く女/幕末の「株式会社」/”アメリカという姉ちゃん”  /大先生の門人/”おれは死なんよ”/神戸海軍塾/新選組という組織

三、狂瀾の時代

外国船への攻撃と南北戦争/「市民軍」の創設/烏が一夜で鷺になる/池田屋ノ変/デンマークへの関心/「正義の暴走」

四、新しい「公」の模索

北海道(えぞち)の見学/「時代の風力」の測定/「発想点」としての長崎/徳富兄弟の叔父/若き松陰の志の継承

五、幕末の「大実験」

「英雄」井上聞太/「日本防長国」/「魔王」晋作

 

第六章  ”理想への坂”をのぼる――竜馬の国民像

一、「妖精」勝海舟

幕臣勝海舟の孤影/「洛西第一の英雄」/「異様人」/ 二つの「大鐘」

二、竜馬の国家構想と国際認識

鈴虫と菊の枕/ 理想への坂/「小栗構想」/「仕事師」ナポレオン三世/「薩摩侯国」への旅

三、革命の第三世代

クーデター/  絵堂の奇襲/ 「長州閥」の萌芽/  ”富貴ヲトモニスベカラズ”

四、「国民」の育成

亀山社中という組織/ ”百姓(ひゃくせい)に代わって天下の大事を断ずべき人” / 藩なるものの迷妄

五、「あたらしい日本の姿」

”天が考えること”/「無尽燈(むじんとう)」/海戦

 

第七章 竜馬の「大勇」――二十一世紀への視野

一、「思想家としての風姿」

”もはやおれの時代ではない”/”利(り)の力”/麹(こうじ)の一粒/”お慶大明神”

二、「時勢の孤児」

「ロウ」を作る/ 「穴のあいた大風呂敷」 /”金を取らずに国を取る”/「史上最大の史劇」/「最大の文字」

三、”ただ一人の日本人”

「稀世(きせい)の妙薬」/ 「草莽の志士」と「有能な官僚」/ 仙人の対話/”万国公法じゃ。”/”男子の本懐”/”時間(とき)との駈けっこだな”/ ”燦めくような文字”

四、「ほんとうの国民」

”坂本さんがおれば。――”/「理性の悲劇」/「幕藩官僚の体質」の復活/二つの吉田松陰像

五、竜馬が開けた扉

「大風呂敷」をあける/「三題噺」のエピソードの象徴性

 

参考文献

年表一、――本書関連簡易年表(一八〇四~一八六九)

年表二、――司馬遼太郎(福田定一)簡易年表(一九二三~九六)

 

書評と紹介

(ご執筆頂いた方々に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。)

書評 金井英一氏『望星』(2010年6月号)

書評 清水良衛氏『比較思想研究』第36号(2010年3月)

書評 中川久嗣氏『文明研究』第28号(2010年3月)

書評 梶重樹氏『異文化交流』第10号(2010年2月)

紹介 『出版ニュース』 2010年1月下旬号

紹介 「日本図書館協会選定図書週報」

紹介 『週刊 読書人』(2010年2月12日)

(人文書館のHPより)

 

事項索引

――あ行、か行――

赤穂浪士       220,358

アメリカ独立戦争   4,192

アヘン戦争       6,16,56,64,65,69,70,76, 82,98,99,100,157,163,166,189,230

安政の大獄                3,7,87,122,191,289

イギリス公使館の焼き討ち       3,191

池田屋ノ変    3,18,70,96,227,228,231,233,254,379

イカルス号事件                  335

いろは丸事件     316,317

オランダ憲法                     135,137,325

海援隊        4,123,147,149,310,312,316,321,326,329,330,334,335,341,345,351,358

海軍操練所                        57,182,197

亀山社中    14,18,51,66,147,169,272,279-281,283,284,287,291,292,295,304-306,309,312,317

咸臨丸       14,141,177,178,181,183,198,269,271

奇兵隊                 19,72,73,225,226,245,267,273,274,276,277,278,296,297,354

キューバ危機                          3,380

クリミア戦争    5,56,79,81,82,87,101,166,209

 

――さ行――

坂下門ノ変                         190

佐賀の乱                               20

桜田門外の変                       7,132,174

薩英戦争                             246,271

薩長同盟               3,14,18,19,51,255,287,318

四国艦隊                             194,324

四境戦争 →長州征伐

四民平等                             278,361

松下村塾     17,63,94-96,98,122,157,169,239

諸国民の解放戦争                         137

人権宣言          192

新選組                    3,70,96,209,219-222, 227-229,233,254,283,292,312

征韓論                               167,261

西南戦争                      20,257,260,261

船中八策              19,308,324,326,345,346

祖国戦争                     7,8,101,137,166

 

――た行――

第一次世界大戦                       137,224

大逆事件                                 131

大政奉還            14,121,237,308,321, 324,326-329,331,333,339-345

大東亜戦争                  11,15,16,242,355

第二次世界大戦                           355

太平洋戦争                            16,130

血の日曜日事件                           137

千葉道場                   2,17,24,32,41,42,44-46,115,118,124,182,220,222,265

長州征伐                 237,254,267,280,282

対馬事件                             165,378

適塾(適々斎塾)                  80,140,162

寺田屋事件                           174,289

天誅組                                   173

天保庄屋同盟                         119,358

デンマーク・オーストリア戦争         229,230

統帥権                                   186

東禅寺事件      174,175,190

奴隷解放                               87,98

 

――な行――

生麦事件                             175,335

南北戦争               4,223,224,230,309,321

二月革命                             160,270

日清戦争(戦役) 210,219,266,289,315,351,355

日米和親条約                            2,84

日露戦争        6,16,19,20,131,137,148,230, 231,234,251,269,275-289,355,356,362

農奴制の廃止(農奴解放)           87,229,380

野山獄           88,90,91,93,159,231,232,273,377

 

――は行、ま行――

八月十八日の政変        209,226,227,231

蛤御門ノ変(禁門ノ変)   18,156,157,188,205,  232,240,246,250,254,255,260,282,286,303

ハンガリー出兵                            87

万国公法         196,316,334,335,337,361,362

フェートン号事件                       5,166

普仏戦争                             315,363

フランス革命                        5,75,158

プロシア       315,317,357

ベトナム戦争                           4,381

ペトラシェフスキー事件               101,160

戊辰戦争          14,20,118,141,163,  260,314,319,347,351,359,360

マリア・ルス号(ルーズ号)事件      360,380

明治憲法                             136,331

 

――や行、ら行――

ユニオン号事件               291,295,296,302

陸援隊                    118,311,329,330,351

列藩同盟                         256,257,348

ロシア革命                           137,357

 

『司馬遼太郎とロシア』(東洋書店、2010年)

4885959497

 

「目次」

はじめに―― 歴史認識の問題と『坂の上の雲』

第一章 若き司馬遼太郎と方法の生成

冒険小説『敵中横断三百里』/モンゴルからの視点と『史記』/『ロシアについて――北 方の原形』/徳冨蘆花への関心とトルストイ理解/トルストイのドストエフスキー観と司 馬遼太郎/学徒出陣と「敵」としてのロシア

第二章 幕末の日本とロシア

ロシア船による密航の試みとクリミア戦争/井伊直弼とアレクサンドル二世「暗殺」の比 較/「竜馬」像の変遷と「明治国家の呪縛」/ロシア宮廷と山県有朋/「隠蔽」という方 法と歴史的事実

第三章 ロシアと日本の近代化の比較

ロシアの「西洋化」と「国粋」/「文明国」の情報の問題/言語教育と「コトバの窓」/ 「西洋化」の再考察/コザックと武士の比較

第四章 日露戦争と「国民国家」日本の変貌

旅順要塞とセヴァストーポリの攻防/広瀬武夫と石川啄木のマカロフ観/専制国家と官僚 /ポーランドの併合と韓国併合/「国家を越えた人間の課題」/「勝利の悲哀」

終章  司馬遼太郎の文明観

『坂の上の雲』映像化の問題点/「亡国への坂をころがる」/「皮相上滑りの開化」/「特殊性」から「普遍性」へ

注/関連年表

*    *    *

「はじめに」より

『坂の上の雲』を書き終えたあとで司馬は、「私などの知らなかった異種の文明世界を経めぐって長い旅をしてきたような、名状しがたい疲労と昂奮が心身に残った」と書くが、この言葉は日露戦争という近代の大戦争の考察をとおして、司馬がいかに帝政ロシアという「異種の文明世界」の奥深くにまで入り込んで観察していたかを物語っていると思える。
それゆえ本書では、『坂の上の雲』を書き終えた後で、江戸時代に勃発寸前までに至った日露の衝突の危機を防いだ商人高田屋嘉兵衛を主人公とした大作『菜の花の沖』を一九七九年から八二年にかけて書いた司馬が、一九八六年には『ロシアについて――北方の原形』で、ロシアという国家の原形にも迫ろうとしたにも注意を払いながら、日本とロシアの近代化の問題に焦点を当てることで、司馬のロシア観の深まりを考察することにしたい。
この作業をとおして、司馬遼太郎が単なる流行作家ではなく、現代の世界状況をも予見するような、すぐれた文明史家であったことを示すだけでなく、なぜ司馬が『坂の上の雲』の映像化を禁じたのかをも明らかにできるだろう。