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主な研究

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主な研究(活動)

長瀬隆氏の「アインシュタインとドストエフスキー」を聴いて

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長瀬隆氏の「アインシュタインとドストエフスキー」を聴いて

ペレヴェルゼフ『ドストエフスキーの創造』(1989、みすず書房)の訳者として知られる長瀬隆氏は、その考察を踏まえた『ドストエフスキーとは何か』(2008、成文社)では、作家のレオーノフが「アインシュタインとドストエフスキー」を研究の課題とすべきだと語っていたことを紹介し、昨年には『トリウム原子炉革命――古川和男・ヒロシマからの出発』(展望社)を刊行している。

例会での発表は長年にわたる研究を反映した重厚なものであったが、時間的な制約のために全部は語り尽くされなかったので、びっしりと書き込まれたA4版・10枚の配布資料で補いながら感想を記すことにしたい。

発表の前半では個人史にもふれつつ、ドストエフスキーからの強い影響が指摘される作家レオーノフの作品を学生の頃に熱中して読んだことや、30年代後半の大粛清の真最中に書かれたレオーノフの戯曲『吹雪』が発表されるにいたる経過や来日の際の質疑応答などが詳しく語られた。また、アインシュタインがこの時期のソ連では批判の対象とされていたことや、検閲などのために厳しい制限を受けていたペレヴェルゼフの『ドストエフスキーの創造』が、日本でも1934年にその一部が翻訳掲載され、小林秀雄の『ドストエフスキーの生活』にもその名前が見えるなどのエピソードも語られた。

ただ、なかなか本題の「アインシュタインとドストエフスキー」に話が到達しないので気をもんだが、マクロの世界を支配するのが調和である」と信じ、その解明を目指して「相対性理論を創造した」アインシュタインが、『カラマーゾフの兄弟』を「いままで手にしたなかでもっともすばらしい本です」と記し、「ドストエフスキーはどんな思想家よりも多くのものを、すなわちガウスよりも多くのものを私に与えてくれる」と絶賛していたことに言及するころから一気に佳境に入った。

すなわち、大著『アインシュタイン』の著者クズネツォフは、「非ユークリッド幾何学の最初の提唱者はロシアのロバチェフスキーであって、リーマンよりも30年も早く、その精神はドストエフスキーの中にも流れていた」と説明していた。それゆえ、「非ユークリッド幾何学なしには、空間の3点に時間を加えた四次元の世界(肉眼ではみえない)の発見、すなわち相対性理論の確立は無かった」とした長瀬氏は、「永遠の調和の瞬間」についても言及しているイワンが、「非ユークリッド幾何学の存在をしりながら、それが調和をもたらしていないことを指摘した」ことに注意を促して、アインシュタインがイワンの問題提起に強い関心を持ったのは、この統一場の理論の探求の時代になってからのようであるとした。

質疑応答もアインシュタインの調和との関連などについて議論が盛り上がり、充実したものとなった。小林秀雄が傾倒したベルグソンが「時間と空間のアマルガム(混合物)」と批判したことに対してアインシュタインが、「あなたには、時間(だけ)が有って空間が無い」と反批判したとの説明を聞いた時には、それまでの疑問が解消されたように思えた。

今年は原爆が日本に落とされたことに責任を感じてアインシュタインが哲学者のラッセルとともに組織したパグウォッシュ会議が初めて長崎市で行われた年でもある。質問でも指摘されたように、『カラマーゾフの兄弟』におけるアリョーシャに対する発表者の評価については議論の余地があると思えるが、『罪と罰』では「人類滅亡の悪夢」が描かれていたことを想起するならば、ドストエフスキーの作品に対するアインシュタインの切実な関心は伝わってくる。

「ジャンルの境界」を超えてアインシュタインの倫理観とイワン観の重要性を指摘した今回の発表は、『カラマアゾフの兄弟』論で「完全な形式が、続編を拒絶してゐる」と断言していた小林秀雄が、なぜ「あれは未完なのです」と語るようになったのかを考える上でもきわめて示唆に富むものであった。

リンク→アインシュタインのドストエフスキー観と『カラマーゾフの兄弟』