(書影は「アマゾン」より)
先ほど、「ドストエーフスキイの会」の例会発表が終わりましたので、配布したレジュメの一部をアップします。
* * *
発表の流れ
序に代えて 島崎藤村から堀田善衞へ
a.島崎藤村の『破戒』と『罪と罰』
b.堀田善衞の島崎藤村観と長編小説『若き日の詩人たちの肖像』
c.『若き日の詩人たちの肖像』と島崎藤村の長編小説の類似点
1、長編小説『春』における主人公と同人たちとの交友、自殺の考察
2、明治20年代の高い評価
3、『破戒』と同様の被差別部落出身の登場人物
4、「復古神道」についての考察
d.「日本浪曼派」と小林秀雄
Ⅰ.「祝典的な時空」と「日本浪曼派」
a.「祝典的な時空」
b.「死の美学」と「西行」
c.大空襲と18日の出来事
d.『方丈記』の再認識
e.『若き日の詩人たちの肖像』の続編の可能性
Ⅱ.『若き日の詩人たちの肖像』の構造と題辞という手法
a. 卒業論文と「文学の立場」
b.『広場の孤独』と二つの長編『零から数えて』と『審判』
c.「扼殺者の序章」の題辞
「語れや君、若き日に何をかなせしや?」(ヴェルレーヌ)
Ⅲ、二・二六事件の考察と『白夜』
a. 第一部の題辞
「驚くべき夜であつた。親愛なる読者よ、それはわれわれが若いときにのみ在り得るやうな夜であつた。空は一面星に飾られ非常に輝かしかつたので、それを見ると、こんな空の下に種々の不機嫌な、片意地な人間が果して生存し得られるものだらうかと、思はず自問せざるをえなかつたほどである。これもしかし、やはり若々しい質問である。親愛なる読者よ、甚だ若々しいものだが、読者の魂へ、神がより一層しばしばこれを御送り下さるやうに……。」(米川正夫訳)
b. 河合栄治郎「二・二六事件の批判」
c.主人公の「生涯にとってある区分けとなる影響を及ぼす筈の、一つの事件」
d.「成宗の先生」の家の近くで『白夜』の文章を暗唱した後の考え
e.ナチス・ドイツへの言及
Ⅳ.アランの翻訳と小林秀雄訳の『地獄の季節』の問題
a. 第二部の題辞
「人を信ずべき理由は百千あり、信ずべからざる理由もまた百千とあるのである。人はその二つのあいだに生きねばならぬ」(アラン)。
「資本主義は、地上の人口の圧倒的多数に対する、ひとにぎりの先進諸国による植民地的抑圧と金融的絞殺とのための、世界体制へとまで成長し転化した。そしてこの獲物の分配は、世界的に強大な、足の先から頭のてつぺんまで武装した二、三の強盗ども(アメリカ、イギリス、日本)の間で行なはれてゐるが、彼らは自分たちの獲物を分配するための、自分たちの戦争に、全世界をひきずりこまうとしてゐるのだ。」(レーニン)
b. レーニンへの関心の理由
c.留置所での時間と警察の拷問
d.ほんとうの御詠歌と映画《馬》
e.アランの『裁かれた戦争』の訳と小林秀雄の戦争観
f.詩人プラーテンの「甘美な詩句」と小林秀雄訳のランボオの詩句
g.小林秀雄訳のランボオ『地獄の季節』の問題点
h.「人生斫断家」という定義と二・二六の将校たちへの共感
Ⅴ、繰り上げ卒業と遺書としての卒業論文――ムィシキンとランボー
a.第三部の題辞
「むかし、をとこありけり。そのをとこ、身をえうなき物に思ひなして、京にはあらじ」(『伊勢物語』作者不詳)。
「かくて誰もいなくなった」(アガサ・クリスティ)
b.時代を象徴するような題名と推理小説への関心
c.美しい『夢の浮橋』への憧れ
d.遺書としての卒業論文
e.真珠湾攻撃の成果と悲哀
f.小林秀雄の耽美的な感想
g.「謎」のような言葉
h.ムィシキンとランボーの比較の意味
i.長編小説における『悪霊』についての言及と小林秀雄の「ヒットラーと悪魔」
Ⅵ.『方丈記』の考察と「日本浪曼派」の克服
a.第四部の題辞
「羽なければ空をもとぶべからず。龍ならば雲にも登らむ。世にしたがへば、身くるし。いかなるわざをしてか、しばしもこの身をやどし、たまゆらも、こころをやすむべき。」(鴨長明、『方丈記』)
「陛下が愛信して股肱とする陸海軍及び警視の勢力を左右にひつさげ、凛然と下に臨み、身に寸兵尺鉄を帯びざる人民を戦慄せしむべきである。」(公爵岩倉具視)
b.アリャーシャの『カラマーゾフの兄弟』論と「イエス・キリスト」論
c.国際文化振興会調査部での読書と国学の隆盛
d.「復古神道」とキリスト教
e.小林秀雄の『夜明け前』観と「近代の超克」の批判
f. 出陣学徒壮行大会での東条首相の演説と荘厳な「海行かば」の合唱
g.国民歌謡「海行かば」と保田與重郎の『萬葉集の精神-その成立と大伴家持』
h.審美的な「死の美学」からの脱出と『方丈記』の再認識
終わりに・「オンブお化け」と予言者ドストエフスキー
a.ドストエフスキーとランボーへの関心
b.『若き日の詩人たちの肖像』における「オンブお化け」という表現
「死が、近しい親戚か、あるいはオンブお化けのようにして背中にとりついている」
「未来は背後にある? 眼前の過去と現在を見抜いてこそ、未来は見出される」(『未来からの挨拶』の帯)。
c.過去と現在を直視する勇気
主な参考文献と資料
高橋誠一郎『「罪と罰」の受容と「立憲主義」の危機――北村透谷から島崎藤村へ』
――「堀田善衞の『白痴』観――『若き日の詩人たちの肖像』をめぐって」『広場』
――狂人にされた原爆パイロット――堀田善衛の『零から数えて』と『審判』をめぐって(『世界文学』第122号、2015年12月)
――小林秀雄のヒトラー観、「書評『我が闘争』と「ヒットラーと悪魔」をめぐって〕など。
『堀田善衛全集』全16巻、筑摩書房、1974年
堀田善衞・司馬遼太郎・宮崎駿『時代の風音』
竹内栄美子・丸山珪一編『中野重治・堀田善衞 往復書簡1953-1979』影書房
池澤夏樹, 吉岡忍, 宮崎駿他著,『堀田善衞を読む――世界を知り抜くための羅針盤』集英社
橋川文三『日本浪曼派批判序説』、講談社文芸文庫、2017年。
福井勝也「堀田善衞のドストエフスキー、未来からの挨拶(Back to the Future)」他。
山城むつみ「万葉集の「精神」について」など、『文学のプログラム』講談社文芸文庫、2009年。
ケヴィン・マイケル・ドーク著/小林宜子訳『日本浪曼派とナショナリズム』柏書房, 1999
松田道雄編集・解説『昭和思想集 2』 (近代日本思想大系36) 筑摩書房, 1974
鹿島茂『ドーダの人、小林秀雄――わからなさの理由を求めて』
鈴木昭一「堀田善衛諭――「審判」を中心として」『日本文学』16巻2号、1967
黒田俊太郎「二つの近代化論――島崎藤村「海へ」・保田與重郎「明治の精神」、鳴門教育大学紀要、『語文と教育』30観、2016年
中野重治「文学における新官僚主義」『昭和思想集』
井川理〈詩人〉と〈知性人〉の相克 ―萩原朔太郎「日本への回帰」と保田與重郎の初期批評との思想的交錯をめぐって」、『言語情報科学』(14)