ここのところ忙しく、原発事故に関連する記事を書くことができませんでしたが、日本だけでなく地球の将来にも大きな影響を及ぼすにできごとが続いています。
少しさかのぼることになりますが、時系列に沿って、原発事故関連の出来事を追って記すことにします。
今回は、事故当時の最高責任者・菅直人氏を講演者に招いて、「福島原発事故 ― 総理大臣として考えたこと」と題して行われた3月15日の「脱原発を考えるペンクラブの集い」での菅氏の講演の内容をまず紹介し、その後で安倍首相が全世界に向けて発した、汚染水は「完全にブロックされている」という発言を検証することにします。
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「脱原発を考えるペンクラブの集い」part4は、五〇〇名を収容できる専修大学神田校舎の大教室で行われので、最初はどの位の聴衆が集まるのか少し不安にも思ったが、講演が始まる少し前には座れない人も出るほどとなった。
冒頭で司会の中村敦夫環境委員長は、事故から三年も経った現在も放射線や汚染水が毎日、放出されているにもかかわらず福島第一原子力発電所の状況についての報道がほとんどなされていないことを指摘し、メディアをとおしては知り得ないことをこの場で包み欠かさず伝えて頂きたいと語った。
菅元首相もそれに応じる形で資料なども用いながら、未曾有の大事故と対面した時の危機感と対応をきわめて率直に語り、第二部の質疑応答でも厳しい質問にも深い反省も交えて誠実に答えていたのが、印象的だった。
事故当時の状況については、新聞や書物、さらには前回行われた環境委員会の研究会などで少しは知っていたが、最高責任者だった菅氏によって肉声で語られた内容はやはり衝撃的だった。
改めて驚いたのは、原子力発電の専門家の委員たちが原発事故を想定していなかったために、事故が起きた後では首相に適切なアドバイスをすることがまったくできていなかったことである。
菅氏は政府事故調中間報告の図面資料を用いながら、四号機プールに水が残っていなかったら、二五〇㎞圏に住む五千万人の避難が必要という「最悪のシナリオ」になった可能性があったという背筋がぞっとするような核心部分の話に入った。
一九八六年に起きたソ連のチェルノブイリの原発事故では核反応そのものが暴走し、一機の爆発としては最大のものであったが、ソ連の場合は事故を起こしたのは四号機だけだった。しかし、福島第一原発だけでも六機の原発と七つの使用済みプールがあり、さらに第二原発にも四機の原発と四つのプールがあったので、日本の場合はソ連の場合よりも数十倍から百倍の規模の災害となる危険性が高かったのである。
菅氏は政財界からだけでなくマスコミからも浴びせられた激しいバッシングについて、ユーモアを交えつつ語ったが、その話からは司馬遼太郎氏が『坂の上の雲』で指摘していた「情報の隠蔽」の問題――多くの評論家の解釈とは異なり、「情報の隠蔽」の問題が『坂の上の雲』におけるもっとも重要なテーマであると私は考えている――が現在の日本でも続いていることが痛感された。
休憩後に行われた第二部の「質疑応答」では、壇上の茅野裕城子氏(理事・女性作家委員会委員長)、吉岡忍(専務理事)、山田健太(理事・言論表現委員長)だけではなく、会場からも冒頭での浅田次郎会長の質問をはじめとし、下重暁子副会長や小中陽太郎理事からも会場の素朴な疑問を代弁するような質問があった。
たとえば、浅田会長からの、なぜ日本では狭い国土に五四基もの原発が建設され、原発が動いていなくとも困らないのに再稼働の動きがあるのか」という質問に対しては、菅氏は電力会社の宣伝などのために原発がなくても生活ができるにもかかわらず「オール電化」が必要だと思い込まされていたことや、競争相手もないのにテレビコマーシャルを流すなどの手段でメディアに対する支配力をもっているためだろうと答えた。
原発事故に総理として直面したことを「天命」と受け止めて、「語り部」としてその時のことをきちんと伝えていこうとする菅氏の政治姿勢を司会者の中村氏は高く評価し、今後の変革のエンジンになってもらいたいと語ったが、それは五〇〇名という大教室を埋め尽くした聴衆も同じだったようで、締めの言葉の後では拍手が長く続いた。
熱い質疑応答は懇親会にも引き継がれ、菅氏は日本ペンクラブの元会長で哲学者の梅原猛氏が今回の原発事故を「文明災だ」と規定していたことにもふれつつ、地震大国でもある日本が「脱原発」へと転換する必要性を強調した。
今回の「集い」では日本の原発産業や政財界だけでなく、マスコミの問題点が浮き彫りになったと思われる。
(詳しい報告は「日本ペンクラブ会報」第424号に掲載)。
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5月17日付けの「東京新聞」は、「汚染水 外洋流出続く 首相の『完全ブロック』破綻」との大見出しで、「東京電力福島第一原発から漏れた汚染水が、沖合の海にまで拡散し続けている可能性の高いことが、原子力規制委員会が公開している海水データの分析から分かった」ことを報じています。
以下にその記事の一部を引用しておきます。
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二〇一一年の福島事故で、福島沖の同地点の濃度は直前の値から一挙に最大二十万倍近い一リットル当たり一九〇ベクレル(法定の放出基準は九〇ベクレル)に急上昇した。それでも半年後には一万分の一程度にまで急減した。
一九四〇年代から世界各地で行われた核実験の影響は、海の強い拡散力で徐々に小さくなり、八六年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故で濃度は一時的に上がったが、二年ほどでかつての低下ペースとなった。このため専門家らは、福島事故でも二年程度で濃度低下が元のペースに戻ると期待していた。
ところが、現実には二〇一二年夏ごろから下がり具合が鈍くなり、事故前の水準の二倍以上の〇・〇〇二~〇・〇〇七ベクレルで一進一退が続いている。
福島沖の濃度を調べてきた東京海洋大の神田穣太(じょうた)教授は「低下しないのは、福島第一から外洋への継続的なセシウムの供給があるということ」と指摘する。
海水が一ベクレル程度まで汚染されていないと、食品基準(一キログラム当たり一〇〇ベクレル)を超える魚は出ないとされる。現在の海水レベルは数百分の一の汚染状況のため、「大きな環境影響が出るレベルではない」(神田教授)。ただし福島第一の専用港内では、一二年初夏ごろから一リットル当たり二〇ベクレル前後のセシウム137が検出され続けている。沖合の濃度推移と非常に似ている。
神田教授は「溶けた核燃料の状態がよく分からない現状で、沖への汚染がどう変わるか分からない。海への汚染が続いていることを前提に、不測の事態が起きないように監視していく必要がある」と話している。
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原発事故の後で菅氏追求の急先鋒だった安倍氏は、昨年の9月には国際社会に向かって「汚染の影響は専用港内で完全にブロックされている」と日本の首相として強調していました。
しかし、その説明は現在、完全に破綻しているばかりでなく、原発事故のさらなる拡大の危険性が広がっていると思えます。
原発事故の検証とともに、その発言も検証される必要があるでしょう。