前回、指摘した「特定秘密保護法」と同じように「集団的自衛権」もきわめて重大な問題を含んでいます。私は防衛の専門家でもないのですが、「カミカゼ」という視点から、日本本土が攻撃される危険性を指摘しておきたいと思います。
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私が「カミカゼ」という言葉を衝撃を持って受け止めたのは、研究のためにイギリスに1年間、滞在していたときに起きた「チェチェン紛争」の際でした。
その際にも日本からはほとんど取材陣は派遣されていなかったようですが、イギリスの放送局は、現在は「テロリスト」と呼ばれている「チェチェンの独立派」への密着取材を行っており、指導者の一人から「我々は絶対に降伏しない。いざとなればモスクワへの『カミカゼ』攻撃を行ってでも、独立を達成する」と語っていたのです。
チェチェンや中東での戦争については日本ではあまり報道されないこともあり、日本とは関係の薄い遠い国の出来事のように捉えられているようです。
しかし、2014年7月1日に安倍政権は憲法解釈を変更し、以下の場合には集団的自衛権を行使できるという閣議決定をしました。
「日本に対する武力攻撃、又は日本と密接な関係にある国に対して武力攻撃がなされ、かつ、それによって「日本国民」に明白な危険」がある場合は「必要最小限度の実力行使に留まる」集団的自衛権行使ができる。
文面だけを読むと「自衛隊」とはあまり関係がないようにも読めますが、かつてブッシュ大統領が「報復の権利」を主張して行ったイラクやアフガンの情勢は、アメリカ軍だけでは制圧できないほどに混沌としてきています。
世界有数の軍事力を保持するようになった「自衛隊」への支援要請が早晩来るのは確実と思われ、その際に安倍政権はその要請を断ることができないでしょう。
ここで注目したいのは、アフガンへの攻撃にブッシュ政権が踏み切ろうとしていた際にアメリカの新聞が、アフガンの歴史にも言及しながら、その危険性を指摘したことです。拙著よりその箇所を引用しておきます。
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ニューヨーク・タイムズ紙の記者フランク・リッチもアメリカでの同時多発テロへの「報復」をうたった「今回の戦争には、反対しない」としながらも、「(アメリカ)国民の多数は、米国が冷戦中にアフガニスタンでイスラム過激派をソ連と戦わせていたことも、そしてその後にソ連が退却すると、アフガニスタンを見捨てたことも、理解していない」と指摘している*29。
つまり、アメリカ政府は「テロ」の「野蛮さ」を強調する一方で、なぜテロリストが生まれたのかを国民に説明しないまま「新しい戦争」へと突き進んだのである。
リンク→『この国のあした――司馬遼太郎の戦争観』(のべる出版企画、2002年)
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トルコを含むイスラム圏で日本人が高い尊敬を受けている理由の一つは、日本が勝利の可能性が少ないにもかかわらず、日露戦争や太平洋戦争でロシアやアメリカなどの「大国」と戦っていたからです。
そしてことに、イスラムの過激派が深い尊敬の念を抱いているのは、戦いが圧倒的に不利になると日本軍が「カミカゼ」攻撃を行って戦争を続ける意思を示してていたからなのです。
その日本の「自衛隊」がアメリカ軍の「護衛」という形であっても参戦した場合、彼らの激しい憎しみが、自分たちがモデルとしていた「カミカゼ」を行っていた日本にも向けられる可能性は高いと思われます。
つまり、十分な審議もなく閣議で決定された「集団的自衛権」は、「日本国民」の生命を守るどころか、「明白な危険」を生み出す可能性がある危険な法律なのです。
今回の総選挙では「アベノミクス」が争点だと明言したことで、閣議決定された「特定秘密保護法」や「集団的自衛権」の問題には、言及されていません。
それゆえ、総選挙後もこれらの問題に対する「国民」の審判を受けたと安倍政権は主張することはできないでしょう。
しかし、そのことも「争点」になっていることも忘れてはならないでしょう。「特定秘密保護法」と同じように、安倍政権はこれらの法律の危険性が国民に知られる前に総選挙を行おうとしている可能性さえあるからです。