「日本政府が、その抗議において、繰り返し多用する主張は、2020年の東京オリンピックに向けて国連越境組織犯罪防止条約を批准するためにこの法案が必要だというものでした。」(国連特別報告者「官房長官の声明に対する反論」)
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昨日の報道によれば、安倍首相はG7サミットのテロに関する議論の中で、日本政府が「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案の今国会成立を目指していることに関連し「テロの資金源である組織犯罪対策の強化が必要であり、国際組織犯罪防止条約の締結のためのわが国の取り組みに対するこれまでの各国の支持に感謝したい」と語った(「東京新聞」)。
「共同通信」が〈首相、「共謀罪」支持に謝意〉との見出しでこのニュースを伝えたために、あたかも安倍政権が強行採決した「共謀罪」法案がサミットでも評価されたかのような印象が生まれた。
しかし、階猛氏がすでにツイッターで指摘しているように「見出しと記事の本文が不整合。本文を読むと『国際組織犯罪防止条約締結の取り組み』への各国の支持に首相が感謝したとあるが、『共謀罪』支持への感謝はどこにもない」のである。
問題はサミットの前に安倍首相と日本政府が「プライバシーに関する権利の国連特別報告者」ケナタッチ氏から受け取っていた「共謀罪」法案にたいする厳しい指摘については完全に無視していることであろう。
しかし、すでに多くの報道機関によって報じられているように、ケナタッチ氏は問題点を具体的に示したうえで、日本政府からの詳しい説明と情報の提供も下記のように明快に求めていた(青い字で記す)。
「人権理事会から与えられた権限のもと、私は担当事件の全てについて事実を解明する職責を有しております。つきましては、以下の諸点につき回答いただけますと幸いです。
- 上記の各主張の正確性に関して、追加情報および/または見解をお聞かせください。
- 「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」の改正法案の審議状況について情報を提供して下さい。
- 国際人権法の規範および基準と法案との整合性に関して情報を提供してください。
- 法案の審議に関して公的な意見参加の機会について、市民社会の代表者が法案を検討し意見を述べる機会があるかどうかを含め、その詳細を提供してください。」
しかもケナタッチ氏は、最近の日本における状況を踏まえて次のように結んでいた。
「最後に、法案に関して既に立法過程が相当進んでいることに照らして、これは即時の公衆の注意を必要とする事項だと考えます。したがって、閣下の政府に対し、この書簡が一般に公開され、プライバシーに関する権の特別報告者のマンデートのウェブサイトに掲載されること、また私の懸念を説明し、問題となっている点を明らかにするために閣下の政府と連絡を取ってきたことを明らかにするプレスリリースを準備していますことをお知らせいたします。
閣下の政府の回答も、上記ウェブサイトに掲載され、人権理事会の検討のために提出される報告書に掲載いたします。/ 閣下に最大の敬意を表します。」
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こうして、「共謀罪」法案をめぐる日本政府の見解が全世界に向けて公表されることを国連特別報告者・ケナタッチ氏があらかじめ断っていたにもかかわらず、安倍政権は最近の国会で野党からの質問に対するのと同じようなやり方で、特別報告者からの丁寧な要望に対して全く回答しなかったばかりか情報も提供せずに、内政干渉であるかのごとき抗議の書簡を送りつけた。
本稿の視点から注目したいのは、その抗議文に対して国連特別報告者が、冒頭に掲げたオリンピック開催問題にも言及しながら、次のように厳しい反論を安倍政権に突きつけたことである。
「日本政府は、これまでの間、実質的な反論や訂正を含むものを何一つ送付して来ることが出来ませんでした。いずれかの事実について訂正を余儀なくされるまで、私は、安倍晋三内閣総理大臣に向けて書いた書簡における、すべての単語、ピリオド、コンマに至るまで維持し続けます。
日本政府がこのような手段で行動し、これだけ拙速に深刻な欠陥のある法案を押し通すことを正当化することは絶対に出来ません。」
戦前の価値観の復活を目指す「日本会議」に支えられている安倍政権の閣僚たちにとっては、国連特別報告者からのこのように厳しい反論も野党からの批判と同じように無視すればよく、官僚と報道機関を握っていれば国内の反対は押さえられると感じているように思える。
たしかに、国会で3分の2以上の議席を持つ自民・公明・維新の3党が参議院でも一致すれば、この法案も強行採決すれことができるだろう。しかし、国連の特別報告者デビット・ケイ氏やケナタッチ氏の指摘や報告の内容は、安倍政権の強圧的な対応によっていっそう説得力のあるものとなり、ベルリン・オリンピックの悲劇を体験している国際社会は「リットン報告書」の時と同じような対応を取らざるをえなくなるだろう。
(ベルリン・オリンピックの開会式でオリンピック旗に敬礼するアドルフ・ヒトラー。1936年8月1日。出典はサイト「ホロコースト百科事典」)(出典は「東洋経済.net」)
それゆえ、ジャーナリストの保坂展人・世田谷区長が提案しているように、「参議院審議の前に、ケナタッチ氏の指摘を直接聞くことは必須だろう」。
「共謀罪」法案を強行採決することは東京オリンピック開催の消滅につながると私は考えている。
参考資料:「東京新聞」「朝日新聞」「毎日新聞」及び「民進党広報局」作成の下記の文書
プライバシーに関する権利の国連特別報告者 ジョセフ・ケナタッチ書簡全訳
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