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村田光平

「原発の危機と地球倫理」――「地球システム・倫理学会」の研究例会に参加して

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「原発の危機と地球倫理」――「地球システム・倫理学会」の研究例会に参加して

「国際社会の信頼を回復するために」と題された「地球システム・倫理学会」の5月の研究例会での報告者は、フクシマの大事故が起きる前から原発の危険性を指摘してこられた村田光平・元駐スイス大使であった。                                                           

 重たいテーマでの研究報告であったが、ユネスコ事務総長顧問でもある服部英二会長の国際的な視野に立脚した司会により、現在の日本が抱える問題を浮き彫りにするとともに、将来への展望が開かれような深い知的刺激に富むものとなった(以下、敬称略)。

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服部会長は冒頭で、事故直後に原発事故の処理にあたるべき東電の社員の9割が逃げ出していたことが明らかになった朝日新聞のスクープに言及し、村田氏が原発の危険性について発言をされていたことに注意を促し、放射能廃棄物などの問題が山積するなか村田氏の報告がまさに「地球倫理」の確立に深く関わることを指摘して、講演の後の活発な議論を望むと結んだ。

報告で村田氏は「福島の教訓」を忘れて、「原発再稼働、輸出、放射能廃棄物」などの動きが続く日本が、「不道徳社会と化し」、実質的には「国際社会における名誉ある地位」が失われたことをまず指摘した。そして、安倍首相が「日本人の暮らしと生命を守るため」として、強引に進めている「集団的自衛権」の問題を、本末転倒であり、未だに収束していない福島第一原子力発電所の事故を解決することがに急務であると力説した。

このような村田氏の論調は批判が厳しすぎると感じ読者もいるだろうが、チェルノブイリ原発事故の際には問題を重大視したソ連政府が30万人を動員して、7ヶ月で「石棺」を作り上げていたことの説明は、当時モスクワにいた私にとっては、原発の問題を解決することが「日本人の暮らしと生命を守る」ことになるという主張はきわめて説得力に富んでいると思われた。        

 実際、「脱原発を考えるペンクラブの集い」part4で、菅直人・元首相は政府事故調中間報告の図面資料を用いながら、四号機プールに水が残っていなかったら、二五〇㎞圏に住む五千万人の避難が必要という「最悪のシナリオ」になった可能性があったことを詳しく説明した。問題は同盟国のアメリカはもちろん、さまざまな体験からその危険性も認識していたと思えるロシア政府なども知っていたと思われるこの事実が、その生命を守るべき「日本の国民」にはほとんど知らされていないままに、原発の再稼働の動きが始められていることである。

次に、村田氏はこのような問題が未だに日本で解決されていない原因の一つとして、「経済至上主義」による「情報の隠蔽」の問題を指摘し、日本国民の生命にかかわるだけでなく、地球環境にも大きな影響を及ぼす大事故の危険性を軽視している現政権の倫理性を鋭く追求し、最後に緊急課題として「IAEAの改革及び東京オリンピックからの名誉ある撤退」の必要性を強調した。

「オリンピックからの撤退」はきわめて難しい問題だと思えるが、情報がきちんと伝えられていない日本とは異なり、むしろ事故発生当初から確実な情報を得ていた外国の方が危機感が強く、村田氏は遅かれ早かれ選手団を日本に派遣することになる外国からの開催の辞退を要求する声により、開催が不可能になる可能性が高いことを示唆した。             

辞退を要求されてから取りやめるのではなく、日本政府がそれを決断して一刻もはやくに原発事故の収束に向けて全力を尽くすべきだとの議論には説得力があった。

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講演後の質疑応答で私は十分な議論もなく採択された「特定秘密保護法」にも言及しながら、1955年に公開された黒澤映画《生きものの記録》の時期にもすでに同じような「情報の隠蔽」の問題があったのではないかとお尋ねし、おそらくそうだろうとの回答を得た。

また、脱原発に踏み切ったドイツなどとは異なり、現在も原発を推進しているフランスの問題についての質問と議論もあった。福島第一原子力発電所に設置されたアレバ社の放射性物質除去装置の問題や、フランスでも使用済み核燃料の最終処分場の問題はまったく解決されていないことなどが指摘されて、いずれは脱原発に向かわざるを得ないだろうとの予測が語られた。

一時的な目先の利益ではなく、遠い将来も見据えた真摯なと質疑応答からは、現状に対する認識はきわめて厳しい一方で、「天地の摂理」が働いてもいずれは解決されるだろうという報告者の文明論的な見通しの正しさ示されたと感じた。

書き漏らしたことも多々あると思われるので、会場で配布されたレジュメを以下に記すことで報告の流れを補っておく。

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「国際社会の信頼を回復するために」

1, 失われた「国際社会における名誉ある地位」

 不道徳社会と化した日本社会

 原発再稼働、輸出、放射能廃棄物

 地震原因説への対応

 4号機危機の下の「バンド演奏が続けられるタイタニック」

2.  福島事故の教訓

原発の存在と安全保障問題

ゼロ原則の確立と科学技術の限界

父性文明から母性文明への転換の必要性

指導者の必要条件

3.  「奇妙な独裁」――国際原子力独裁

福島切捨てから日本切捨てへ

世界の命運を左右する電力会社

4.  国家の危機への対応

電力会社の経営危機から国家危機への対応へ

立場の相違を乗り越え総力の結集を

「ロシア秘密文書」の教訓

5.文明の危機への対応

経済至上主義の限界

文明の視点の欠如

力の父性文明から和の母性文明へ

注目され出した母性文化論

6.日本の歴史的役割

三位一体の目標(国連倫理サミットの開催による地球倫理の確立、母性文明の創設、民事、軍事を問わない核廃絶の実現)

緊急課題――IAEAの改革及び東京オリンピックからの名誉ある撤退